ヨガ(ピラティス)スタジオを始めようと思うんだけど、インストラクターは自社で直接雇用するんじゃなくて外注化したいんだ。
なるほど、それでは外注のインストラクターと結ぶ業務委託契約書が必要だね。
そうなんだよ。
でもヨガ(ピラティス)インストラクターとの業務委託契約書の書き方なんて分からないよ。
分かりました。
それでは今回は、ヨガ(ピラティス)スタジオやジム・スポーツクラブのオーナー様向けに、外注のインストラクターと結ぶ業務委託契約書の作成方法と気を付けるポイントを解説します。
昨今、フィットネス業界では、インストラクターとの契約形態として業務委託契約を選択するケースが増えています。しかし、適切な契約書を作成していないと後々トラブルとなってしまう可能性があります。
この記事では、実際の契約書の雛形を参考にしながら、各条項の重要性と盛り込むべきポイントを、施設運営側とインストラクター双方の視点から詳しく解説していきます。
ヨガ(ピラティス)に限らず、ズンバやダンスレッスンのインストラクターでも契約書作成のポイントは同じです。
1. 基本的な確認事項を書く
まずは、誰と誰が契約を結ぶのかをはっきりさせます。
スポーツクラブ◎◎◎◎(以下「甲」という。)と△△△△(以下「乙」という。)は、乙が甲の運営するスポーツクラブにおいて、ヨガインストラクターとして業務を行うことに関し、以下のとおり業務委託契約(以下「本契約」という)を締結する。
【お店側が気を付けること】
- スタジオ(クラブ)の正式名称を書きます
- お店の住所、営業時間、定休日も明記します
【インストラクター側が気を付けること】
- 契約先のスタジオ(クラブ)の正式名称と代表者を確認します
- スタジオ(クラブ)の場所と営業時間が自分の生活リズムに合うか確認します
- 定休日や休みの取り方についても、しっかり確認しましょう
2. 業務内容を詳しく定める
次に、インストラクターがどんな仕事をするのかを具体的に書きます。
甲は、乙に対し、甲が運営する下記スポーツクラブ(以下、「当クラブという」。)において、次に定める業務(以下「本業務」という。)を委託し、乙はこれを受託する。
店舗名 スポーツクラブ◎◎◎◎
住所 ◯◯都◯◯区◯◯●―●―●
営業時間 午前9時~午後9時
定休日 別紙、甲の定める営業カレンダーによる
(1) ヨガインストラクター業務
(ア) 年齢や技能レベルに応じたヨガの指導
(イ) ヨガの理解とマインド指導
(2) スポーツクラブ運営サポート
(ア) レッスンプランの作成と実施
(イ) 生徒の出欠管理
(ウ) 練習用具の準備と管理
(3) 安全管理
(ア) レッスン中の安全確保
(イ)以下省略
【お店側が気を付けること】
- レッスン以外の仕事(準備や片付けなど)がある場合は全て記載します
- 安全管理の役割分担をはっきりさせます
- 報告や連絡の方法も決めておきます
- 新しいプログラムを作ってもらう場合は、その内容も書いておきます
- 特別なイベントがある場合の対応も決めておきます
【インストラクター側が気を付けること】
- 自分の経験や技術で対応できる内容か確認します
- レッスン以外の仕事がどのくらいあるか、時間を確認します
- 報酬が仕事の量に見合っているか検討します
- 安全管理の責任範囲を確認します
- レッスン内容の著作権はどうなるのか確認します
3. 業務委託契約であることを明確にする
インストラクターに、雇用契約と業務委託契約の違いを説明しましょう。
- 乙は、甲から独立した事業主体であり、乙は本業務においては単独でその責任を負い…以下省略
- 甲及び乙、両者間において労働基準法等に定める雇用関係は存在しないものとし、また乙について、各種社会保険(労災・雇用・健康保険・厚生年金)は適用されないものとする。
【お店側が気を付けること】
- 個人事業主として仕事を依頼する形だと明記します
- 社会保険に入れないことを説明します
- 指示の出し方が従業員のようにならないよう注意します
- 確定申告はインストラクター側の責任だと伝えます
- レッスン内容にはある程度の裁量を持たせます
【インストラクター側が気を付けること】
- 個人事業主として仕事をする意味を理解します
- 税金や保険の手続きは自分でする必要があります
- けがや病気のときの保障がないので、個人で保険に入ることを検討します
- 確定申告の仕方を確認します
- 自分の判断で仕事を進められる範囲を確認します
4. レッスンのスケジュール管理について
インストラクターとレッスンのスケジュール管理について定めます。
- 甲は、毎月●日までに翌月の業務予定表を作成し、乙に通知するものとする。
- 乙は、前項の業務予定表を受領後●日以内に、自己の都合を勘案の上、甲に対して業務可能日時を書面又は電磁的通信方式を用いて回答するものとする。
- 甲は、前項の回答を踏まえ、乙と協議の上、業務スケジュールを確定させ、毎月末日までに乙に通知するものとする。以下省略
【お店側が気を付けること】
- スケジュール調整の具体的な流れを決めます
- 連絡方法(メール、LINE、電話など)も決めておきます
- 急なキャンセルへの対応方法を決めます
- 代わりのインストラクターを探す手順も考えておきます
- 度重なる遅刻やキャンセルへの対応も決めておきます
【インストラクター側が気を付けること】
- スケジュールの確定までの流れを把握します
- 他の仕事との両立が可能か確認します
- 急な変更が必要になった時の連絡方法を確認します
- キャンセルした場合の報酬への影響を確認します
- 代わりの先生を自分で探す必要があるか確認します
5. 報酬の決め方と支払い方法
報酬の支払い方法や期限について定めます。
- 本契約の報酬は、1レッスン、●千円(消費税込み)とする。
- 前項による報酬は月末締めとし、乙は翌月●日までに甲へ請求書を発行する。甲は、当該請求書を受領した日の属する月の翌月●日に乙の指定する口座に振り込み支払うものとする。(振込手数料は乙の負担支払い)
- 報酬は、契約期間中といえども、以下省略
【お店側が気を付けること】
- 報酬の計算方法を分かりやすく説明します
- 支払いの時期と方法をはっきり決めます
- 源泉徴収の有無を明記します
- キャンセル時の報酬について決めておきます
- 報酬の見直し方法も決めておきます
【インストラクター側が気を付けること】
- レッスン1回あたりの報酬を確認します
- 準備や片付けの時間分の報酬も確認します
- 請求書の出し方を確認します
- 報酬の振込手数料は誰が負担するか確認します
- キャンセルになった場合の報酬も確認します
6. 他のお店での指導に関する制限
インストラクターに対する義務や禁止事項を定めます。
- 乙は、本契約に基づく業務の遂行にあたり、以下の行為を行ってはならない。
(1) 甲の名誉または評判を損なう行為を行うこと。
(2) 甲の許可なく、甲の会員に対して直接的な指導サービスを提供すること。
(3) 甲の事前の書面による承諾なく、競合他社での兼業または競合する業務に従事すること。
【お店側が気を付けること】
- 制限する範囲は合理的な範囲にとどめます
- 地域や期間は必要最小限にします
- お客様の引き抜き防止も考えます
- 違反した場合の対応も決めておきます
- インストラクターの生活にも配慮します
【インストラクター側が気を付けること】
- 制限される地域と期間を確認します
- 他のお店でのレッスンへの影響を確認します
- 将来の独立開業への影響を考えます
- 制限が厳しすぎる場合は交渉を検討します
- 生活への影響を考慮します
7. 安全管理とけが・事故の対応
インストラクター自身が怪我をしたり事故を起こした場合の措置について定めます。
- 乙が本業務遂行中、故意又は重大な過失を除き、お客様に損害を与え又は甲の有する設備に損傷を与え紛失もしくは破損させた場合、甲は、自己の責任においてその損害を賠償する。
- 甲が前項による賠償をした場合、以下省略
【お店側が気を付けること】
- 設備の安全点検の方法を決めます
- 事故が起きた時の対応マニュアルを用意します
- 保険の加入を検討します
- 緊急連絡先リストを作ります
- 定期的な安全講習を実施します
【インストラクター側が気を付けること】
- レッスン前の安全確認の方法を把握します
- 事故が起きた時の連絡方法を確認します
- 自分の責任範囲を理解します
- 必要な保険に加入します
- お店の設備が安全か確認します
8. 契約を解除する場合のルール
スタジオ、クラブのオーナー様は、外注のインストラクターがお客様から度々クレームを受けた場合などに備えて、解約条項を定めておく必要があります。
- 甲は、乙の技術及び指導方法が他の委託先インストラクターと比較して明らかに劣っていると判断し又は、乙の責めに帰すべき事由により生徒又は保護者から度々クレームを受けるなど、当クラブの信用・品位を喪失させる行為が続いた場合、以下省略
- 乙は、甲から前項による解除通告を受けた場合、何ら意義を唱え又は、甲に対し催告による解除を理由として損害賠償することはできないものとする。
【お店側が気を付けること】
- 契約を終了する理由を具体的に示します
- 改善のためのアドバイスをします
- 十分な改善期間を設けます
- 終了時の手続きを明確にします
- 引継ぎ方法も決めておきます
【インストラクター側が気を付けること】
- どんな場合に契約が終了するか確認します
- 改善を求められてから契約終了までの期間を確認します
- クレーム対応の基準を確認します
- 技術評価の基準を確認します
- 契約終了時の最終支払いについて確認します
9. 問題が起きたときの責任範囲
インストラクターが契約違反を侵した際に備えて違約金条項を定めます。
乙が本契約のいずれか1つに違反し本契約を解除した場合、金●万円を上限として甲に違約金を支払うものとする。
違約金の額は、法外に高額であれば公序良俗違反として無効になる可能性がありますので、合理的な範囲内で定める必要があります。
【お店側が気を付けること】
- 賠償金の金額は適切な範囲にします
- 損害の具体例を示します
- 紛争解決の方法を決めておきます
- 保険でカバーできる範囲を確認します
- トラブル防止のための指導をしっかりします
【インストラクター側が気を付けること】
- 賠償金の金額が適切か確認します
- どんな場合に賠償が必要になるか確認します
- 自分の責任範囲を理解します
- 必要な保険に加入することを検討します
- トラブル防止の方法を確認します
まとめ
今回は、ヨガ・ピラティススタジオやジム・スポーツクラブのオーナー様向けに、外注のインストラクターとの業務委託契約書の書き方や注意点について解説しました。
よく「契約書って難しそう…」「細かいことを決めすぎると、インストラクターが嫌がるんじゃないかな」という声を聞きます。でも、実は逆です。
きちんとした契約書を作ることで、
- お互いの役割がはっきりする
- 誤解が減る
- 将来のトラブルを防げる
- 信頼関係が築きやすくなる
という大きなメリットがあります。
特に以下の点は、必ずチェックしておきましょう。
スタジオオーナー様へ
- 仕事の内容は具体的に書きましょう
- スケジュール管理のルールを明確にしましょう
- 報酬の計算方法は分かりやすく示しましょう
- 安全管理の責任分担を決めましょう
- 他店舗での指導制限は適度な範囲にしましょう
インストラクターの方へ
- 仕事の範囲と責任をしっかり確認しましょう
- 報酬の条件はしっかり確認しましょう
- スケジュール調整の方法を確認しましょう
- 他での指導制限が生活に影響しないか確認しましょう
- 必要な保険加入も検討しましょう
契約トラブルの多くは「お互いの認識の違い」から始まります。
特に口頭での約束は、時間が経つと記憶が曖昧になってしまいがち。だからこそ、契約書でしっかりと確認し合うことが大切です。
この記事で紹介した契約書の例はあくまでも参考です。
最終的には、お店の規模や運営方針、インストラクターの経験や指導スタイルなど、貴店の状況に合わせて調整してください。
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