新しいビジネスとしてピアノ教室を始めようと思うんだけど、楽器の講師は自社で直接雇用するんじゃなくて外注化したいんだ。
なるほど、それでは外注先の先生と結ぶ業務委託契約書が必要だね。
そうなんだよ。
でも音楽教室の業務委託契約書の書き方なんて分からないよ。
分かりました。
それでは今回は、音楽教室のオーナー様向けに、外注の講師と結ぶ業務委託契約書の作成方法と気を付けるポイントを解説します。
楽器需要と音楽教室が増加傾向
コロナ禍以降、楽器を始める人が増加しているようです。これにより音楽教室の運営もより活発になってきております。
運営方法としては、教室が音楽講師を直接雇用せず、業務委託契約を結ぶ形態を採用するケースが非常に多いです。
これには教室側、講師側、双方に様々なメリットがありますが、同時に適切な業務委託契約書を用いることが重要となります。
音楽教室の業務委託契約書作成で気を付けるポイント
1.業務内容の明確化
契約書の冒頭では、委託する業務内容を具体的に定義することが重要です。
業務内容を明確に定義することで、講師の責任範囲が明確になり、後々のトラブルを防ぐことができます。
また外注の講師に、教室の期待する指導水準を明確に伝えることにもつながります。
音楽教室の業務委託契約においては以下のような項目が含まれます。
- 個人レッスンの実施
- グループレッスンの実施
- アンサンブル指導
- 演奏技術の指導
- 音楽理論の指導
- 教材の作成および選定
- 生徒の進捗管理
- 発表会やコンクールへの対応
これらの項目をさらに細分化し、具体的な内容を記述することをお勧めします。
例えば、「教材の作成および選定」という項目であれば、以下のような詳細を記載するとよいでしょう。
- レッスン用教材の作成
- 適切な楽曲の選定
- 教材の定期的な見直しと更新
- 生徒の習熟度に合わせた教材のカスタマイズ
2.独立した事業主であることの明記
講師が音楽教室から独立した事業主であること(雇用契約ではないこと)を明確にする条項を設けることは非常に重要です。
これは単なる形式的な文言ではなく、法的リスクを軽減するための重要な要素です。
この条項では、以下のような点を明記します。
- 講師が音楽教室から独立した事業主であること
- 講師が業務遂行において単独で責任を負うこと
- 講師が音楽教室に雇用されているわけではないこと
- 講師が音楽教室の指揮命令下にないこと
これらの点を明確にすることで、雇用関係と誤解されるリスクを軽減し、業務委託契約の本質を明確に示すことができます。
3.注意義務の規定
音楽教室が外注の音楽・楽器講師に対して、教室の方針やマニュアルを尊重し、教室や生徒の信用を損なわない義務があることを明記します。
この条項は、講師の責任を明確にし、質の高いサービス提供を促すために重要です。
具体的には、以下のような内容を盛り込みます。
- 教室の運営方針及びマニュアルを尊重すること
- 善良な管理者としての注意義務
- 教室及び生徒の信用を傷つける行為を禁止すること
- 教室の評判を維持・向上させる努力義務があること
これらの点を明記し、講師に対して教室の一員としての自覚を促し、外注の音楽講師の指導力のバラつきを防ぎ、高品質な指導を維持することを目的とします。
4.契約期間と更新方法
契約期間とその更新方法を明確に定めます。
- 契約期間(通常は1年間)
- 自動更新の仕組み
- 更新を望まない場合の通知期限
- 更新回数の制限(ある場合)
例えば、「契約期間は1年間とし、期間満了の1ヶ月前までに双方から特段の申し出がない場合は、同一条件で1年間自動更新されるものとする」といった具合です。
また、更新時に条件変更の可能性がある場合は、その旨と協議の方法についても明記しておくとよいでしょう。
5.中途解約の条件
契約期間中でも、一定の条件下で解約できる規定を設けることをお勧めします。
これにより、音楽教室のオーナーと外注先の講師、両者にとって不利益な状況が生じた場合に契約を終了する道を確保することができます。
中途解約の条項には、以下のような内容を含めるとよいでしょう。
- 解約を希望する場合の通知期間(例:3ヶ月前までに書面で通知)
- 解約理由の明示義務の有無
- 解約に伴う違約金や補償の有無
- 解約後の秘密保持義務や競業避止義務の継続
これらの点を明確し、不必要なトラブルを避け、円滑に契約が終了することを促します。
6.報酬体系の詳細化
音楽講師への報酬体系を詳細に規定します。
以下のような項目があります。
- 基本報酬(例:1レッスン60分あたりの報酬)
- 追加報酬(グループレッスン、教材作成、発表会対応など)
- 報酬の計算期間と支払い日
- 支払い方法(銀行振込など)
- 源泉徴収の取り扱い
- 報酬改定の可能性と手続き
また、レッスンのキャンセルや講師の都合による休講の場合の報酬の取り扱いについても明記しておくとよいでしょう。
7.確定申告の義務
音楽講師に確定申告の義務があることを明記します。
確定申告条項を明記する目的は、講師の税務上の責任を明確にし、教室側のリスクも軽減するためです。
具体的には以下のような内容を含めるとよいでしょう。
- 音楽講師が個人事業主として確定申告を行う義務があること
- 必要に応じて個人事業の開業届や青色申告申請書の提出すること
- 確定申告の期限の遵守すること
- 確定申告書の控えの提出義務(教室側が求める場合)があること
8.設備・機材の使用規定
業務遂行に必要な設備・機材の使用について規定します。
機材使用に関するトラブル時の責任の所在を明確にするためです。
具体的には以下のような点を考慮しましょう。
- 原則、講師自身の設備・機材を使用すること
- 教室側が機材を貸与する場合の条件(無償か有償か)
- 貸与された機材の管理責任の明確化
- 機材の故障や損傷時の対応
- 契約終了時の返還義務
9.安全管理責任
安全管理に関する責任の所在を明確にします。
事故防止、事故発生時の対応方法などを明記します。
- 教室側に安全な環境を整備する義務があること
- 講師にも安全配慮義務があること
- 事故発生時、音楽講師に報告義務があること
- 事故対応の手順
- 責任の所在と補償の範囲
10.業務中の災害対応
業務遂行中に講師が自ら怪我したり損害を被った場合の対応方法を規定します。
外注先の音楽講師は雇用契約ではないので労災保険が使えません。
このため自身の公的医療保険や民間の保険でカバーする形になります。
- 業務遂行中の事故や怪我は原則として講師の責任であること
- 講師自身での保険加入の推奨
- 教室側の協力範囲(応急処置など)
- 事故報告の義務と手順
11.事故処理の責任
音楽講師の過失により、教室の生徒に損害を与えてしまった場合は、教室の設備や備品を破損させてしまった場合の取り扱いについて規定します。
具体的には以下のような項目があります。
- 音楽講師の過失による事故や損害は講師が責任を負うこと
- 外注の音楽講師には、賠償責任保険への加入義務(または推奨)があること
- 音楽教室側の協力範囲(情報提供など)
- 事故処理の手順と報告義務
これらの点を明確にすることで、事故発生時の適切な対応と迅速な問題解決を目指します。
12.著作権の取り扱い
音楽教室の業務委託契約書において、著作権条項は非常に重要です。
講師はレッスン遂行過程で作詞作曲を行うことがあります。
この楽曲の著作権の権利関係を規定する必要があります。
具体的には以下のような点を考慮します。
- 楽曲の著作権の帰属先
- 教室側の使用権(範囲と期間)
- 音楽教室が二次利用する場合や改変する際の権利がどちらに帰属するのか
- 教材等の開発に対する追加報酬の有無
これらの点を明確にすることで、音楽創作物の適切な管理と活用が可能になります。
13.禁止事項のリスト
講師が業務遂行にあたって禁止される行為を具体的に列挙します。
以下は音楽教室の業務委託契約において頻出の禁止事項です。
貴店の実情に合わせて追加・削除してください。
- 教室の評判を損なう行為や発言をしないこと
- 生徒や保護者との不適切な関係を構築しないこと
- 無断での個人レッスンの提供をしないこと
- 教室の施設・設備を不適切に使用をしないこと
- 差別的言動/政治的・宗教的活動
- アルコールや薬物を使用した状態でのレッスン実施
- 競合他社のための勧誘活動
- 暴力的言動や体罰
- レッスン時間の不当な短縮や遅刻・欠席の常習化
これらの禁止事項を明確にすることで、適切な教育環境を維持し、トラブルを未然に防ぐことができます。
14.契約解除の条件と手続き
- 講師の履歴書に、●●コンクール入賞!と書いていたのに、実際に雇ってみたら演奏が下手くそ過ぎた。
- 音楽教室の講師業務は接客業だという認識がなく、保護者からクレームが多発
この様なトラブルは往々にしてあります。
対策として、講師のパフォーマンスが不十分な場合や、クレームが多発した場合の対応について規定します。
具体的には以下のような段階的なプロセスを設けることが有効です。
- 問題点の指摘と改善要求
- 改善のための期間設定(例:1ヶ月)
- 改善が見られない場合の警告
- 最終的な契約解除の通知
また、即時解除が可能な重大な違反行為(例:違法行為、重大な信用失墜行為など)についても明記しておくとよいでしょう。
15.講師の遅刻やキャンセル時の対応
外注の音楽講師が、自己都合により、レッスンの当日に遅刻したり無断欠勤した場合の規定を定めます。
これらを犯した場合、教室運営者は報酬を支払わないことはもちろん、損害が発生した場合は講師に対して損害賠償請求できる旨を規定します。
なお、この場合における損害賠償請求の額についてですが、実損額を上限とするか、教室の信用失意による逸失利益までをも含めるものとするかは事業者と講師との合意により取り決める形になります。
まとめ
今回は、音楽教室のオーナー様向けに、外注の講師と結ぶ業務委託契約書の作成方法と気を付けるポイントを15個解説しました。
音楽教室のオーナー様が、外注先の楽器講師と良好な契約関係を築くことは、単にトラブル防止するだけでなく、講師のモチベーションを向上させたり、教室の質の維持向上にもつながります。
今回解説したポイントを業務委託契約書に盛り込むことで、音楽教室と外部講師との間で、良好な関係を築くことができるでしょう。
一方で、過度に制限的な契約内容にしてしまうと、優秀な講師を遠ざけてしまう弊害もあります。
そのため教室の利益を守りつつも、楽器講師の自由度や創造性を尊重するバランスの取れた契約内容を目指すことが重要です。
本記事で紹介したポイントを参考にしながら、生徒たちに質の高い音楽教育を提供していただければ幸いです。
本記事で紹介したポイントは、あくまでも基本的な指針としてお考えください。実際の契約書作成にあたっては、自教室の特性や需要に合わせて適用させる必要があります。
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