【美容医療クリニックの院長向け】アートメイク看護師の業務委託契約書の作成で気を付けるポイントを解説

今回はアートメイクに焦点を当てて解説していますが、医療脱毛や医療ハイフでも契約書作成におけるポイントは同じです。

現在、エステサロンやセルフエステ施設において、無資格者によるハイフ施術は禁止されておりますので注意してください。2024年6月7日付、医療HIFUについて厚生労働省公示

業務委託契約特有のリスク

アートメイク看護師を直接雇用せず、業務委託契約で起用する場合、特有のリスクが存在することをご存知でしょうか？

これらのリスクを理解せずに契約書を作成・締結してしまうと、将来的に深刻なトラブルに発展する可能性があります。

主なリスクとしては以下のようなものが挙げられます。

• 偽装請負と認定されるリスク
• 施術ミスによる損害賠償リスク
• 社会保険や労働保険に関するリスク

これらのリスクを適切に管理し、両者にとって有益な関係を構築するためには、高品質な業務委託契約書が不可欠です。

アートメイク看護師業務委託契約書の重要ポイント

1. 契約の基本事項（前文）

アートメイク看護師業務委託契約書 ［委託者］医療法人●●会（以下「甲」という。）と［受託者］◎◎◎◎（以下「乙」という。）は、以下のとおり、アートメイク看護師業務委託契約書（以下「本契約」という。）を締結する。

契約書の冒頭部分では、契約の当事者を明確に定義することが重要です。

ここでは、委託者（クリニック側）を「甲」、受託者（看護師側）を「乙」と定義しています。この明確な定義により、以降の条項で両者の権利と義務を明確に区別します。

また、契約書のタイトルを「アートメイク看護師業務委託契約書」と明記することで、この契約が雇用契約ではなく業務委託契約であることを明確にしています。

この表記は偽装請負のリスクを軽減する上で重要なポイントとなります。

2. 業務内容の明確化（第1条）

第１条（委託内容）
甲は、乙に対し、甲が運営する美容医療クリニック（以下、「当クリニックという」。）において、次に定める業務（以下「本業務」という。）を委託し、乙はこれを受託する。
（１） 当クリニックに来院するお客様へ、医師の指示の下でおこなうアートメイクの施術補助及びこれに付随するカウンセリング業務
（２） 当クリニックの運営補助
（３） 以下、省略

第1条（委託内容）では、委託する業務内容を具体的に定義しています。

条文のポイント

• 業務範囲を明確にすることで、委託業務と雇用との境界線を明確にします。
• 「医師の指示の下で」という文言により、医療行為の責任所在を明確にします。
• カウンセリング業務や運営補助など、アートメイク施術以外の業務も含めることで、包括的な業務委託であることを示しています。

特に、「医師の指示の下で」という部分は重要です。

アートメイク施術は医療行為に該当するため、看護師が独自の判断で行うのではなく、必ず医師の指示に基づいて行う必要があります。これにより医療過誤のリスクゼロを目指します。

3. 契約の前提条件

第●条（前提条件）
乙は、以下の事項全てを確約することを条件として、甲と本契約を締結するものとする。
（１） 看護師免許証の写しを本契約締結日までに、甲へ提出すること
（２） 本契約締結日から●ヶ月以内に、個人事業の開業届を税務署に提出し、以下省略

ここでは、契約締結の前提条件を定めています。

条文のポイント

• 看護師免許証の写しの提出を求めることで、委託先が適格な資格を持っていることを確認します。
  アートメイクの業務委託契約においては必須です。
• 看護師に個人事業の開業届の提出を求めることで、委託先が独立した事業者であることを明確にします。
  

特に、個人事業の開業届に関する条件は、業務委託契約において非常に重要です。

これにより、委託先が独立した事業者であることが明確になり、雇用関係との線引きがより明確になります。

4. 雇用関係の否定

第●条（業務委託の確認）
本業務に関して、甲と乙とは、本契約に基づく業務委託契約を締結しており、両者間において労働基準法等に定める雇用関係は存在しない。したがって、乙については、各種社会保険…以下省略

（業務委託の確認）は、この契約が雇用契約ではなく業務委託契約であることを明確に示しています。

条文のポイント

• 雇用関係ではないことを明確にすることで、労働法規の適用を回避します。
• 社会保険の適用がないことを明記することで、後々のトラブルを防止します。
• 偽装請負と判断されるリスクを軽減します。

ただし、この条項があるからといって、実態が雇用関係に近い場合は偽装請負と判断される可能性があります。

そのため、実際の業務遂行においても、雇用関係ではなく業務委託の関係性を維持することが重要です。

また院長は、採用面接時に、雇用契約と業務委託契約の違いについても看護師へ丁寧に説明すると良いでしょう。

5. 法令遵守と業務提供の原則

第●条（本業務の提供原則）
乙は、本業務の遂行に際して、医師法、保健師助産師看護師法、救急救命士法、その他関係法令及び倫理を厳守する。また、甲の指示の下、自らの有する専門的な知識及び技術、若しくは経験に基づいて本業務を遂行するとともに…以下省略

（本業務の提供原則） は、業務遂行における法令遵守と倫理的行動を定めた重要な条項です。

条文のポイント

• 関係法令の遵守を明記することで、法的リスクを軽減します。
• 委託先の専門性を尊重しつつ、クリニック側の指示に従うことを明確にしています。
• 資格の範囲を超える行為の禁止を明記することで、医療過誤のリスクを軽減します。
• 患者からの不適切な要求への対応方法を明確にすることで、トラブルを未然に防ぎます。

特に、「甲の指示の下」という文言は重要です。

業務委託でありながらも、アートメイク施術は医師法に基づき、医師の指示の下でおこなうことが前提である旨を本条項でも強調しています。

6. 契約期間

第●条（契約期間）
本契約の有効期間は、本契約締結日から１年間とする。ただし、本契約期間満了日の前日までに、甲及び乙いずれからも書面による本契約解除の意思表示が通知されない場合は、さらに１年自動更新され、以後も同様とする。

ここでは契約期間について定めています。

条文のポイント

• 契約期間を1年と定めることで、定期的な見直しの機会を設けています。
• 自動更新条項により、継続的な業務委託関係を維持しやすくしています。
• 解除の意思表示方法を明確にすることで、契約終了時のトラブルを防止します。

自動更新条項は、継続的な業務関係を維持する上で有用ですが、同時に契約の見直しや終了の機会を逃さないよう注意が必要です。

また、上記は書面による方法で通知するとしていますが、メールやLINEなど、電子的通信方式による解除の意思表示を認めることで、手続きの簡便化を図ることもできます。

7. 中途解約

第●条（中途解約）
1. 甲及び乙は、本契約期間中であっても、本契約の解約を希望する●ヵ月前までに、相手方へ書面による通知を発する方法により、本契約を解約することができる。
2. 前項による中途解約には…以下省略

中途解約に関する条項です。

条文のポイント

• ●ヶ月前の通知を必要とすることで、急な契約終了による混乱を防ぎます。
• 双方に解約の権利を与えることで、公平性を保っています。

この条項により、クリニック側も看護師側も、状況の変化に応じて柔軟に契約を終了することができます。

代替の看護師を確保するため、また看護師が次の仕事を途切れなく探してもらうためにも、余裕をもった期間を定めましょう。

8. 報酬

第●条（報酬）

1. 本契約の報酬は、施術１回につき、◎千円（消費税込み）とする。
2. 前項による報酬は月末締めとし、乙は翌月●日までに甲へ請求書を発行する。甲は、当該請求書を受領した日の属する月の…以下省略

報酬に関する条項です。この条項には以下のような意義があります。

条文のポイント

• 報酬額、報酬の支払い方法、支払い時期を明確にすることで、金銭トラブルを防止します。

ここでは、アートメイク看護師との契約関係が長期間に及ぶことを鑑み、報酬を契約期間の途中で改定できることを盛り込んでもよいです。

また看護師から医療機器の使用料を徴収する場合は使用料をこちらに盛り込みます。

9. 確定申告

第●条(確定申告)
本契約による報酬については、所得税法に定める事業所得に該当する為、乙は、毎年度、確定申告の適正な履行を…以下省略

ここでは、業務委託契約特有の確定申告に関する条項です。

この条項には以下のような意義があります。

条文のポイント

• 報酬が事業所得であることを明確にし、確定申告の義務を委託先に課します。
• 確定申告の不履行によるリスクを委託先に負わせることで、クリニック側のリスクを軽減します。

この条項は、業務委託契約が雇用契約ではないことを明確にする上で非常に重要です。

確定申告の義務を明記することで、看護師が独立した事業者であることを強調しています。

また、不適切な税務処理によるクリニック側のリスクを防止する効果もあります。

10. 委託方法

第●条（委託方法）
1. 甲及び乙は、翌月の勤怠スケジュールを前月末日までに甲乙協議の上、決定する。
2. 乙は、甲からの委託依頼に対して、自身の裁量でその諾否を決定…以下省略
3.乙は、甲からの委託を当日にキャンセルする場合は…以下省略

ここでは、具体的な業務委託の方法を定めた条項です。

条文のポイント

• スケジュール決定プロセスを明確にすることで、効率的な業務運営を可能にします。
• 委託先の裁量権を認めることで、雇用関係との差別化を図っています。
• キャンセルに関する規定を設けることで、突発的な欠勤によるリスクを軽減しています。

特に注目すべきは、委託先の裁量権を認める規定です。

業務委託契約では、自身の裁量で仕事を請け負うか否かを決定することができるのが特徴です。

以上を踏まえ、本条項では業務委託契約の特性を明確にし、偽装請負のリスクを軽減しています。

一方で、キャンセルに関する損害賠償規定を設けることで、クリニック側の利益も保護しています。

11. ユニフォーム（白衣）

第●条（ユニフォーム）
乙は、本業務を遂行するにあたり、甲が指定する白衣（ユニフォーム）を着用しなければならない。なお、ユニフォームを乙へ有償で貸与する場合、甲は報酬からユニフォームの貸与料を差し引くものとする。

ユニフォームに関する条項です。この条項には以下のような意義があります。

条文のポイント

• クリニックの統一感を保ちつつ、業務委託契約の特性を考慮した規定となっています。
• ユニフォームの貸与方法を無償・有償貸与、いずれか選択制にすることで、柔軟な運用を可能にしています。
• 有償貸与の場合の費用処理方法を明確にします。

この条項は、アートメイク看護師が独立した事業者でありながら、クリニックの一員としての外見を保つ必要があるという、業務の特殊性を反映しています。

ユニフォームの貸与を有償・無償、いずれかを選択できるようにすることで、両者の関係性や経済的な状況に応じた柔軟な対応が可能となっています。

12. 義務及び禁止事項

第●条（義務及び禁止事項）
本契約期間中及び該当項目については本契約終了後においても、乙は甲に対し、以下の義務を負う。

（１） お客様への施術及び補助業務は、甲の指示のもとでおこなうこと
（２） 甲及び当クリニックの、信用・イメージを損なうような行為を行わないこと…以下省略

看護師の義務と禁止事項を定めた重要な条項です。

条文のポイント

• アートメイク施術は医師の指示の下でおこなうことを明記し、法令違反に抵触することを念押ししています。
• その他、クリニックの信用やイメージを保護する規定を設けます。

クリニックの、信用・イメージを損なうような行為とは、SNSやグーグルへの批判を書き込むことを想定しています。

他には、顧客との直接取引を禁止したり、クリニックの衛生管理の徹底など必要に応じて追加していきます。

特に患者のプライバシー保護に関する規定は重要です。

ビフォー・アフターの写真撮影をおこなう場合は、被撮影者とクリニックの承諾が必要であること、そして撮影データの取り扱い本条項で定めます。

13. 怪我及び事故等

第●条（怪我及び事故等）
1. 乙は、当クリニックへ出動中若しくは帰宅中又は本業務遂行中に怪我又は事故等が発生した場合、理由の如何を問わず、自ら又は被扶養者として加入している公的保険や自動車保険等を利用して自らの治療、被害者の治療、紛争処理等を行うものとし、甲に対して一切の不利益を…以下省略

看護師の怪我や事故、感染症リスクに備える条項です。この条項には以下のような狙いがあります。

条文のポイント

• 業務中の事故や怪我に関する責任を明確にしています。
• 看護師自身の保険を利用することを明記し、クリニック側に負担義務がない旨を規定しています。
• 新型コロナウイルスなどの感染症のリスクにも言及し、報告義務を課します。

この条項は、業務委託契約特有のリスク管理を反映しています。

雇用契約であれば労災保険が適用されますが、業務委託契約の場合はそうではありません。

そのため、委託先自身の保険で対応することを明記し、クリニック側のリスクを軽減します。

また、昨今の新型コロナウイルス等の感染症に関する規定を設けることは、医療現場において特に重要です。

14. 事故処理

第設●条（事故処理）
1. 乙が本業務遂行中、故意又は重大な過失を除き、お客様に損害を与え又は甲の有する設備（医療機器、タブレット端末等を含む）に損傷を与え、紛失、もしくは破損させた場合、甲は…以下省略

条文のポイント

• お客様への施術ミスや、クリニックの設備への損害に対する対応を明確にしています。
• 原則クリニック側の賠償責任保険で対応することを明記し、迅速な損害賠償を可能にしています。
• クリニック側の求償権を認めることで、看護師の責任も一定程度確保しています。

この条項は、アートメイク施術という特殊な医療行為に伴うリスクを考慮したものです。

お客様の安全を最優先にしつつ、クリニックと看護師、双方の利益を守る規定にすることが重要です。

看護師が万が一医療事故をおこしてしまった場合、看護師個人に損害の全てを賠償させることはあまりにも酷ですし、そもそも看護師一個人に全額の賠償能力があるとは言えません。

そこで、クリニックが自己の賠償責任保険を適用して自己処理することが一般的となります。

このような規定を設けることで、優秀な看護師を採用し、安心して施術してもらう環境つくりを整えてあげることも美容医療クリニックの役割と言えるでしょう。

しかし看護師が故意（わざと）や重大な過失で施術ミスを侵した場合までクリニックが補償してあげる必要はありません。

この場合は、クリニックの賠償責任保険を用いて一旦処理をし、その後は立て替えた費用の全部又は一部を看護師に支払ってもらう（求償権を行使する）ことも可能です。

15. 契約終了後の処理

第●条（契約終了後の処理）

1.甲及び乙は、本契約が終了したときは、互いに既に確定した債権債務について、速やかにこれを清算する。
2. 乙は、本契約が終了した場合、直ちに本業務を中止し、甲に対して必要に応じて顧客及び事務の引継ぎを行い、本契約に基づき預託・貸与されたクリニック運営マニュアル、施術マニュアル…以下省略

ここでは、契約終了後の処理に関して規定しています。

条文のポイント

• 契約終了時の債権債務の清算方法を明確にします。
• 業務の迅速な中止と顧客・事務の引継ぎを規定します。
• 貸与物品やデータの返還・破棄を義務付けます。

この条項は、契約終了時のトラブルを防ぐために非常に重要です。

特に、顧客情報や施術マニュアルなどの機密情報の取り扱いを明確にすることで、契約終了後のリスクを最小限に抑えます。

また、スムーズな業務の引継ぎ規定を盛り込むことで、患者さんへのサービスの継続性を確保します。

まとめ：アートメイク看護師（医療ハイフ）との業務委託契約書作成のポイント

ここまで、アートメイク看護師（医療ハイフ）との業務委託契約書の重要なポイントを解説してきました。

最後に、主要なポイントをまとめます。

1. 業務内容の明確化：
   アートメイク施術の補助、カウンセリング、クリニック運営補助などの具体的な業務内容を明記することが重要です。
2. 雇用関係の否定：
   契約が業務委託であり、雇用関係ではないことを明確にすることで、偽装請負のリスクを軽減します。
3. 法令遵守と倫理的行動の明記：
   医療行為に関わる業務委託であるため、関連法令の遵守と倫理的行動を求める条項が必要です。
4. 報酬体系の明確化：
   報酬の算定方法、支払い時期、改定の可能性などを明確に規定することで、金銭的なトラブルを防止します。
5. リスク管理：
   怪我、事故、感染症などのリスクに対する対応を明確にし、責任の所在を明らかにします。
6. 秘密保持と個人情報保護：
   患者情報の取り扱いに関する厳格な規定が必要です。
7. 契約終了時の処理：
   スムーズな業務の引継ぎと、貸与物品やデータの返還・破棄について明確に規定します。

これらのポイントを押さえた契約書を作成することで、クリニックと看護師の双方にとって明確で公平な業務委託関係を構築することができます。

また、潜在的なリスクを最小限に抑え、トラブルを未然に防ぐことができるでしょう。

ただし、契約書の作成は法的な専門知識が必要な作業です。

本記事で紹介した内容はあくまで一般的な指針であり、具体的な契約書の作成に当たっては、必ず弁護士や行政書士などの専門家にご相談ください。

また業務委託契約を結んだ後も、定期的に契約内容を見直し、必要に応じて改定を行うことが重要です。

美容医療の分野は技術の進歩が速く、法規制も変更される可能性がありますので、常に最新の状況に合わせた契約内容を維持することで、リスクを最小限に抑えることができます。

適切な契約書の作成と運用により、クリニックと看護師がWin-Winの関係を構築し、お客様により良いサービスを提供できる環境を整えましょう。

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