僕は美容院「ビューティーユキマサ」を経営しているんだけど、年末や成人式前だけ猫の手も借りたいほど忙しくなるんだよね。
でもその時のためだけに人を雇いたくはないんだ。
それなら業務の繁閑に合わせてフリーの美容師・スタイリストさんと業務委託契約を交わして乗り切るのが良さそうですね。
なるほど。
業務委託契約なら直接雇うわけじゃないから社会保険に加入しなくてもいいもんね。
はい、ただし直接雇用とみなされないように注意しないといけませんよ。
今回は美容院やエステサロンのオーナー様向けに、外注の美容師・スタイリストと業務委託契約書を交わす際に気を付けるポイントを解説します。
ネイルサロン、まつ毛エクステ、ヘッドスパ、リラクゼーションサロン等の業態であっても基本的には同じ考え方です。
美容院サロンと美容師・スタイリストとの契約トラブルは多い
美容院サロンのオーナー様が、年末や成人式などの繁忙期だけ外注の美容師に応援に来てもらうケースはよくあります。
しかし、サロンと美容師(スタイリスト)との間で正式に業務委託契約書を交わしていないことも多く、これにより両者の間でトラブルに発展することはけっこう多いです。
トラブルのよくある例
外注の美容師・スタイリストが、
- 対応したフリー客をこっそり自店舗へ誘引していた
- 自店舗の顧客情報をこっそり持ち出していた
- 自店舗の液剤やタオルを無断で使用していた
- 自店舗のシャンプードレッサーを壊したが賠償してくれない
- お店の戸締まりを怠り店舗に損害が発生した
契約したサロンが、
- お客様に、サロンが扱うシャンプーを販売したのに規定の報酬を支払ってくれない
- リピートのお客様が自分を指名してくれたのに報酬を支払ってくれない
- 業務委託契約なのに、出勤・退勤時間を厳しく求められる
- 業務委託契約なのに、休みたいときに休ませてくれない
- 業務委託契約なのに、全てオーナーの指示通りに動かないといけない
これ等のトラブルの多くは、そもそも両者の間で契約書を交わしていなかったり、サロンオーナー様がネットで拾った契約書をそのまま流用することが原因で引き起こされます。
トラブルが起きたり、起きたトラブルを早期に解消できないと、サロン全体の雰囲気が悪くなり、その空気は顧客にも波及し、結果として店舗の売上げが減少することにつながります。
トラブル防止には『質の高い契約書が必要』
反対に、サロンオーナー様が外注の美容師・スタイリストと良好な契約関係を続けることができれば、顧客満足度は向上し、その結果サロンと美容師の売上げは向上するでしょう。
サロンと美容師・スタイリストとの間のトラブルを未然に防ぎ、良好な契約関係を継続するためには、両者の間で『質の高い契約書』を交わすことが重要です。
しかし一言で「質の高い契約書」と言っても、どうやって作ればいいのかわかりませんよね。
契約書はネットで拾うこともできますが、正直お勧めできません。
理由は、ネットで拾える契約書はどのサロンにも使える汎用的なものが多く、自店舗の実態に即していないことが多いから。法的に問題はないかもしれませんが、お世辞にも「質が高い」とは言えません。
契約書を作成する目的は、体裁を整えるためではなく、美容サロンと美容師、両者の利益に寄与するためです。
この点を忘れないようにしましょう。
それでは、ここから美容院サロンと外注の美容師・スタイリストとの間で締結する業務委託契約書について、作成時の注意点を解説していきます。
美容院サロンが『美容師業務委託契約書』を作成するときの注意点
[委託者]ビューティー・ユキマサ(以下「甲」という。)と[受託者]◯◯(以下「乙」とい
う。)は、以下のとおり業務委託契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(業務委託内容)
甲は、乙に対し、甲が運営するヘアサロン「ビューティー・ユキマサ」(以下、「当店という」。)において、
次に定める業務(以下「本件業務」という。)を委託し、乙はこれを受託する。
(1) 当店に来店するお客様へのカット、パーマ、カラーリング及びスタイリング等の施術行為
(2) これらに付随する一切の業務
直接雇用とみなされる規定を設けないこと
美容サロンが外注の美容師と業務委託契約を締結する際に、一番気を付けなければならない点、それは契約書の中に雇用契約とみなされるような規定を設けないこと。
業務委託契約と雇用契約は全く別物です。
業務委託契約は、美容師を自社で直接雇用するわけではないので、労災保険や雇用保険の適用がありません。つまり美容師が仕事中に自分のミスで怪我をしても自費で治療してもらうことになります。
また労働時間や休憩を取るタイミングは美容師個人の自由なので、サロンのオーナー様はこれらの働き方について指示することはできません。
しかし雇用契約であれば、美容師を労働社会保険など適切な保険に加入する必要性が生じます。また美容師には自社の就業規則を守ってもらわなければなりません。
具体的には、契約書の中に下記の事項を盛り込むと、直接雇用と疑われる可能性がありますので注意してください。
- 出勤時間・退勤時間を定める
- 休憩時間を制限する
- 待機時間に店からの外出を禁止する
- 作業手順を事細かく定め、手順通りに施術を命じる
- 休日を自由に取らせない
- 自社の福利厚生制度を利用させる
- 報酬から所得税や住民税を差し引く
サロンオーナー様と美容師・スタイリストが直接雇用ではないことを訴求するために、
- 両者は独立した事業主体であること
- 美容師はサロンに直接雇用される立場ではないこと
この2点を明記しておきましょう。
契約期間
契約書には、契約期間を具体的に定めておきましょう。
美容院サロンが外注の美容師と業務委託契約を締結するメリットは、美容師・スタイリストを直接雇用することなく、自店舗が忙しいときだけヘルプでお店を手伝ってもらえること。
つまり契約期間の満了と同時に、両者が後腐れなく契約関係を終了させるためには、契約期間を定め期間満了と同時に契約が終了する旨を定めておくことが重要です。
報酬規定を具体的に定める
サロンと美容師との間で、1番トラブルになる事案が『報酬』に関してです。
冒頭で、よるあるトラブル事例を挙げましたが、これらは契約書面で具体的な報酬規定を定めていないから起こるのです。
このため契約書には、別紙で報酬表を作成することが望ましいです。
具体的には、下記のケースを想定した報酬額や報酬割合を設定します。
- フリー客の施術
- リピート客の施術
- 指名料
- カット、パーマなど施術ごとの報酬
- 液剤の使用料
- 自店舗が取扱う商品の販売に応じた報酬割合
- 外注の美容師が持つ顧客を自店舗にに誘引した際の報酬割合
例えば「カットは売上げの◯%を支払うものとする」など規定します。
報酬の支払い時期を具体的に定める
外注の美容師・スタイリストに報酬を支払うタイミングを具体的に契約書に定めましょう。
例えば、短期間の契約であれば、契約期間の満了後◯日以内に支払うとする。
長期間の契約であれば、月末で締めて翌月◯日に支払うとする。
など、報酬の支払い時期を具体的に定めておきましょう。
美容師の禁止事項(義務)を具体的に定める
美容師・スタイリストを外注するとは言え、お客様からすると、その美容師はあなたの店舗のスタッフの一員として見るわけですから、当然お店の信用や品位を欠く言動は謹んでもらわなければなりません。
そこで、契約書には『禁止事項(義務)』を具体的に定めましょう。
具体的には、下記のケースを想定した『禁止事項(義務)』を明記します。
- 自店舗に来店した客を自分のお店に誘引しないこと
- 顧客情報を持ち出さないこと
- サロンのイメージを損なうような言動をしないこと
- スタッフ同士、協力・連携すること
- 業務委託契約とは言え、サロンの規律や風土を尊重すること
その他、自店舗の実情に合わせて盛り込んでいきます。
『禁止事項(義務)』はボリュームが多くなることが予想されますが、少ししつこいくらいが丁度いいです。
たくさん盛り込んでおきましょう。
中途解約条件を定める
スタイリストを募集したところ、ベストなんちゃら賞の受賞歴のあるスタイリストと契約することができた。
しかし、実際に施術してもらったら技術は下手だし、接客態度も悪くてお客様からグーグルで最低の評価を付けられた。
こんな場合はどうしますか?
契約書には契約期間をうたっている以上、途中で解除できないのでしょうか?
いいえ、そんなことはありません。
この様なケースを想定して、契約期間の途中であっても解除できる条項を盛り込んでおけば良いのです。
ただし即時解除する場合は、解除の正当性、必要性、相当性、合理性等が問われる場合がありますので注意が必要。
これらの根拠も無しに一時の感情で即時解除通告をすると、優越的地位の濫用に抵触する場合があります。
損害賠償規定を具体的に定める
お客様への損害賠償
例えば、外注の美容師・スタイリストが施術中にお客様の耳を切ってしまった場合など、その損害を誰の責任で賠償するのかといった、損害賠償規定を定めておく必要があります。
お客様からすると、そのスタッフがあなたのサロンが直接雇用しているのか外注しているのかは関係ありませんから、この様なトラブルに備えて損害賠償規定を定めておかなければなりません。
サロンへの損害賠償
外注の美容師・スタイリストが、ドライヤーやタブレット端末、シャンプードレッサーなど自店舗の設備・備品を破損させてしまった場合を想定して、その損害賠償条項を定めておきましょう。
例えば、「納入価格の◯%を乙の負担するものとする」、「損害額の全額を乙が負担する」など。
損害賠償条項は、あまりにも外注先の負担を大きく設定すると委託先が離れる可能性があるので慎重に定める必要があります。
また外注の美容師・スタイリストの施術が、お客様の満足のいく結果にならなかった場合、美容師に対しては民法の『契約内容不適合責任』を追求できる可能性がありますので、この様な場合に備えてどのような形でトラブルを解決するのか、なども具体的に定めておきましょう。
まとめ
今回は美容院やエステサロンのオーナー様向けに、外注の美容師・スタイリストと業務委託契約書を交わす際に気を付けるポイントを解説しました。
- 直接雇用とみなされる様な規定を設けないこと
- 報酬規定を具体的に定めること
- 美容師の禁止事項(義務)を具体的に定めること
- 損害賠償規定を具体的に定めること
これらは、業態がマツ毛エクステ、ネイルサロン、ヘッドスパサロン等であっても基本的な考え方は同じです。
サロンのオーナー様は、これらの条項に注意しながら業務委託契約書を作成してください。
質の高い契約書を用いれば、サロンと美容師・スタイリストさん、双方win-winの関係性を築くことが可能です。
お店の繁閑に合わせて、雇用契約と業務委託契約を上手に使い分けましょう。
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