家賃を3か月間滞納したら、外出中に大家さんに家財を放り出されちゃったよ。ひどいと思わない?
それはあんまりですね。
大家さんが言うには「家賃を3か月滞納したら家財を放り出すことができるって契約書にちゃんと書いてたでしょ」だって。
通称『追い出し条項』のことですね。これは2022年12月の最高裁の判断で『違法』になったんですよ。
・家賃滞納による一方的な契約『追い出し条項』の内容
・家賃滞納による一方的な契約解除ができる条件
・今後、賃貸借契約書を作成するにあたり気を付けるポイント
事の発端と判決の内容
12/12(月)
NPO法人「消費者支援機構関西」(大阪市)が家賃債務保証会社「フォーシーズ」(東京都港区)に、賃貸住宅の賃借人との間で交わす契約条項の使用差し止めを求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第1小法廷は12日、家賃を2カ月以上滞納するなどの要件を満たせば建物の明け渡しがあったとみなす同社の条項を違法と判断し、使用の差し止めを命じた。
私たちが通常、不動産会社と賃貸借契約を締結する際は、不動産会社とは別に家賃保証会社とも契約を交わします。その契約内容は「賃借人(家や事務所を借りる人)が万が一、家賃を滞納した場合は、家賃保証会社が不動産会社に賃借人に代わって家賃を支払ってくれる」というもの。
賃借人にとっては、万が一の事態に備えて助かる仕組みですが、家賃保証会社にとっては頻繁に事は起こってほしくない契約内容ですよね。なぜなら家賃の滞納額が増えると保証会社も立て替えが膨らむため経営をひっ迫するから。
この様な事態に備えて、家賃滞納が数ヶ月続けば『賃借人の明確な同意なく家財を運び出すことを可能』とする契約条項を設ける家賃保証会社も多いのです。この決まりは通称「追い出し条項」と呼ばれており、以前から「財産権の侵害に当たる」との批判が多くありました。
しかし今回の最高裁判決により、適正な法的手続きを踏まない家賃保証会社により一方的な追い出しが『違法』と判断されたのです。
争点となった家賃保証会社の契約条項
民法では、契約を解除したい場合、一旦相手に履行の催告をして、それでも契約を履行してくれない場合は解除できる、としています。
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。 ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
しかし実際の賃貸借契約の実務では、この民法の条文とは別の条項を定めていることがほとんどです。
今回問題となった家賃保証会社も然り。以下の4つ全ての要件を満たす場合、保証会社は(借主の明確な異議がない限り)物件の明渡しがあったものとみなすことができる、と独自の条項を定めていました。
- 家賃を2カ月分以上滞納したこと
- 合理的な手段を尽くしても借主と連絡がとれないこと
- 電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当期間利用していないものと認められること
- 本件建物を再び占有使用しない借主の意思が客観的に看取できる事情が存すること
これらの条項の要件を満たす場合は、家賃保証会社や大家さんは「裁判をせずに明渡しができる=賃借人を追い出すことができる」としていることから、このような決まりは『追い出し条項』と呼ばれています。
自力救済は契約書に規定しても禁止
自力救済とは
『追い出し条項』のように、自らがもつ権利を裁判をせずに実力行使で実現することを「自力救済」といいます。しかし自力救済は原則として禁止です。
今回のユキマサくんのケースでいえば、借主(ユキマサくん)が家賃を3ヶ月滞納しても「自力救済」つまり訴訟や強制執行をせずに借主を矯正退去させて家財道具を部屋から放り出すことはできません。
もし大家さん(貸主)が、家財道具を部屋から放り出したり、部屋の鍵を勝手に交換して部屋に立ち入らせなくしたりすれば『不法行為』として民事上の損害賠償請求されても仕方がありません。「住居侵入罪」や「窃盗罪」など刑事罰の対象となる可能性もあるでしょう。
「だったら予め契約書に追い出し条項を定めておけばいいのでは?」と思われたかもしれませんが、現在の判例では、家財の撤去や鍵の交換が可能、といった契約条項は『公序良俗違反』として無効とされています。
実力行使は、やはり違法なのです。
このような背景があり、今回の『追い出し条項』も違法・無効じゃないの?ということで家賃保証会社が訴えられたのです。
判決の内容
家賃保証会社の定めた『追い出し条項』は消費者契約法に違反するとして違法と判断。
【小法廷】
・条項により賃借人が建物を使う権利が消滅していなくても保証会社が一方的にこの権利を制限することになる
・建物明け渡しの裁判などを経ずに保証会社が明け渡しを実現できてしまう点も踏まえ「賃借人と保証会社の利益の間に看過し得ない不均衡をもたらしている」
賃貸借契約書の作成で気を付けるポイント
追い出し条項は使えない
今回の判決を受けて、今後は賃借人の家賃滞納が数カ月間続いたとしても「契約が解除された」とはみなされなくなりました。契約が解除されなければ賃借人の家財を無断で放り出すこともできませんし、キーシリンダーを無断で交換することもできません。
では、賃貸人はどうのような対策をすればいいのでしょうか。
大家さんは契約書に「賃借人が長期間契約物件を不在にする場合は、事前に賃貸人に知らせておく」と定めているかと思います。現時点ではこの決まりをしっかりと守ってもらうしか有効な手立てはないでしょう。
そのためにも賃貸人が、普段から賃借人との人間関係を構築しておく必要があります。
契約の解除は可能
今回の判決では家賃保証会社が定める追い出し条項が無効と判断されましたが「契約を解除できない」とはしていません。
賃貸人からの賃借人への契約の解除は、これまで通り『信頼関係が破壊されたとき』に限り可能です。
【信頼関係破壊の理論(法理)】
賃貸借契約のように。貸主と借主との間に高度な信頼関係が前提となっているようなケースでは,当事者間の信頼関係を破壊したといえる程度の債務不履行(家賃の滞納など)がなければ,契約を解除することはできない,という法理論。
現在の判例上、3か月分以上の家賃滞納があれば、通常は信頼関係が破壊されたものとされて契約解除が認められる。
つまり、今後は契約書内の『解除条項』の重要性が増すことになります。
どのようなケースであれば賃貸人から解除できるのか、を詳細に契約書にて定めておく必要があります。
その際、当然民法や借地借家法はもちろん、判例に則した内容であることが前提となりますので、大家さんの主観的な感情で契約解除できるような定めは無効です。
まとめ
- 『追い出し条項』とは、家賃の滞納などを理由に賃借人の明確な同意なく家財を運び出したり賃借人を締め出すことを可能とする契約条項
- 『追い出し条項』は違法
- しかし「契約の解除」はこれまで通り、判例に従えば有効
- 契約書で『解除条項』をしっかりと定めておくことが今後重要
今回は、家賃保証会社が定める『追い出し条項』をテーマに解説してきました。
この記事をお読みの大家さんや管理会社さんは、
- 自社の契約書に『追い出し条項』が含まれているか(含まれていれば削除)
- 「どのようなケースであれば賃貸人から契約を解除できるのか」
を今一度見直してみましょう。
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