外注の職人さんとは今まで口約束で作業してもらってたんだけど、最近トラブルが多いから契約書を作ろうと思うんだ。
最低限盛り込んでおくべき条項はあるかな?
業務内容を詳細にしておくことと、施工不良の場合の対処法についてはきっちり定めておいた方が良いですよ。
はじめに
「職人さんと信頼関係があるから、細かい契約書は必要ない」
「今までトラブルがなかったから、いつもの簡単な契約でいい」
「難しい契約書を出すと、職人さんとの関係が悪くなるのでは?」
住宅リフォーム会社の社長から、よくこのような声を聞きます。
確かに、職人さんとの信頼関係は何より大切です。しかし、きちんとした契約書を作成することは、その信頼関係を壊すものではなく、むしろ強化するものです。
なぜなら、適切な契約書は
- お互いの役割と責任を明確にし
- 認識の違いによるトラブルを防ぎ
- 問題が起きた時の解決方法を示す
という、信頼関係を守るための「保険」となるからです。
今回は、住宅リフォーム会社の社長に向けて、外注の職人さんと交わす業務委託契約書に必ず盛り込みたい7つの重要条項について、実際のトラブル事例を交えながら、実務的な視点で解説していきます。
請負契約と業務委託契約の違いについては以下の記事をご覧ください。
1. 業務内容の明確化条項
よくあるトラブル事例
給湯器移設工事の範囲トラブル
Aリフォーム株式会社では、築30年マンションの浴室改修工事で大きなトラブルが発生
状況
- 既存の給湯器を移設する必要があった
- 職人さんは「給湯器の移設は自分の担当外」と主張
- 契約書には「浴室改修工事一式」としか書かれていなかった
結果
- 別業者に依頼することになり、15万円の追加費用が発生
- 工期が5日間延長
- お客様からの信用も低下
契約書に必要な記載事項
1. 乙は、別紙1「作業範囲説明書」及び別紙2「施工図面」に記載された範囲の改修工事を実施する。
2. 具体的な作業内容は以下の通りとする。
(1) 既存浴室解体工事
① 既存浴室設備の撤去(給湯器を除く)
② 既存床・壁タイルの撤去
③ 産業廃棄物の適正処理
(2) 新設工事
① 防水工事(アスファルト防水)
② 給排水配管工事(既存配管の活用)
③ ユニットバス設置工事
3. 以下の作業は本契約に含まれないものとする。
(1) 給湯器の移設工事
(2) 照明器具の取付工事
(3) 換気扇の交換工事
4. 作業時間は午前9時から午後5時までとし、日曜日及び祝日は作業を行わないものとする。
5. 乙は、作業開始前に施工計画書を甲に提出し、承認を得るものとする。
6. 本契約に定めのない作業が必要となった場合、甲乙協議の上、書面により変更契約を締結する。
具体的な作業範囲
- 工事の開始条件
- 施工箇所の明確な特定
- 具体的な作業項目のリスト
- 作業範囲を示す図面
施工方法と品質基準
- 使用する材料の詳細仕様
- 施工手順の詳細
- 品質基準(具体的な数値等)
- 業界規格への準拠
施工期間と作業時間
- 着工予定日
- 完工予定日
- 日々の作業時間帯
- 休日の取り扱い
除外作業の明示
- 明確な除外項目リスト
- 別途契約が必要な作業
- オプション作業の範囲
- 追加費用が発生する条件
リスク対策のポイント
業務内容の明確化は、契約トラブルを防ぐ最も重要な要素です。
特に注意すべきは、「この程度は当然含まれている」という思い込みを無くすことです。
長年の取引があっても、個々の現場で求められる作業内容は異なります。
実務上効果的なのは、作業範囲を「含まれる作業」と「含まれない作業」の両方から定義することです。
例えば、給排水工事であれば「給湯器の移設は含まない」「既存配管の撤去は別途」といった除外項目を具体的に列挙します。
これにより、「言った」「言わない」のトラブルを防ぐことができます。
図面の活用も重要です。作業範囲を図面上で色分けして示すことで、視覚的な理解が促進されます。
特に、他の業者との作業範囲が重なる部分は、責任区分を明確にするために図面での表示が効果的です。
また、作業の順序や相互依存関係にも注意が必要です。
例えば、「Aの作業が完了してからBの作業を開始する」といった条件がある場合は、その旨を明記します。
これにより、工程の遅れによる影響を最小限に抑えることができます。
2. 報酬・支払条件に関する条項
よくあるトラブル事例
追加作業の費用トラブル
Cリフォーム株式会社では、キッチンリフォーム工事中に想定外の追加作業が発生
状況
- 既存キッチンの解体時に床の腐食が発見
- 職人さんが現場判断で補修作業を実施
- 作業後に追加請求をしたが、金額で折り合いがつかない
結果
- 追加作業代金40万円が未払いに
- その後の取引関係も悪化
- 裁判(民事調停)での解決を余儀なくされた
必要な記載事項
第○条(報酬及び支払方法)
1. 甲は、本件業務の対価として、金○○○万円(消費税別)を乙に支払うものとする。
2. 前項の報酬の内訳は、以下の通りとする。
基本工事費:○○○万円
材料費:○○万円
諸経費:○○万円
3. 支払いは以下の方法により行う。
(1) 契約時:○○万円(契約金額の20%)
(2) 中間時:○○万円(工事進捗50%到達時)
(3) 完了時:○○万円(検査合格後)
4. 追加・変更工事が発生した場合は、別紙単価表に基づき算出した金額を、甲乙協議の上定めるものとする。
5. 追加・変更工事の代金は、当該工事完了後、速やかに支払うものとする。
6. 支払いは、乙の指定する銀行口座に振り込む方法により行う。なお、振込手数料は甲の負担とする。
報酬額の明確化
- 基本報酬額
- 諸経費の内訳
- 消費税の取扱い
- 単価表(該当する場合)
支払条件
- 支払時期
- 支払方法
- 前払金の有無
- 中間払いの条件
追加・変更時の取扱い
- 追加作業の単価設定
- 変更手続きの方法
- 見積書提出の要否
- 承認手続きの流れ
諸経費の負担
- 材料費の負担区分
- 運搬費の負担区分
- 廃棄物処理費の負担
- 保険料の負担
リスク対策のポイント
報酬・支払条件は、取引の根幹をなす重要な要素です。
特に令和6年11月よりフリーランス新法が制定されましたので、法令遵守の観点からこれまで以上に明確な取り決めが必要となります。
実務上最も重要なのは、追加・変更工事への対応です。
工事の性質上、当初の想定から変更が生じることは珍しくありません。そのため、変更が生じた場合の手続きと費用の算定方法を、あらかじめ明確にしておくことが重要です。
支払条件については、職人さんの資金繰りにも配慮が必要です。
一括後払いは職人さんの負担が大きくなるため、適切な前払金や中間払いの設定を検討すべきです。
フリーランス新法では、元請け業者は、フリーランスから成果物乙の提供を受けた日から60日以内に代金を支払わなければいけないと定めています。
材料費等の諸経費については、誰がどこまで負担するのかを細かく規定しておくことが望ましいです。特に、高額な材料や専門工具については、その調達責任と費用負担を明確にしておく必要があります。
3. 安全管理責任に関する条項
よくあるトラブル事例
作業中の事故トラブル
Eリフォーム株式会社では、外壁塗装工事中に重大な事故が発生
状況
- 足場から作業員が転落し負傷
- 労災保険未加入だった
- 責任の所在が不明確
結果
- 治療費・休業補償で数百万円の支出
- 工期の大幅遅延
- 会社の信用低下
契約書に必要な記載事項
第○条(安全管理)
1. 乙は、本件業務の実施にあたり、労働安全衛生法その他の関係法令を遵守し、作業員の安全確保に努めなければならない。
2. 乙は、以下の保険に加入し、保険証書の写しを甲に提出するものとする。
(1) 労災保険特別加入
(2) 賠償責任保険(対人:1名につき○○○万円、1事故につき○○○万円以上)
(3) その他甲が指定する保険
3. 事故が発生した場合、乙は直ちに応急措置を講じるとともに、甲に報告しなければならない。
安全管理体制
- 安全管理責任者の選任
- 作業員の資格確認
- 安全教育の実施
- 日常点検の実施
保険加入義務
- 労災保険
- 賠償責任保険
- その他必要な保険
- 保険証書の提出
事故発生時の対応
- 緊急連絡体制
- 初期対応の手順
- 報告義務
- 責任分担
リスク対策のポイント
安全管理は、人命に関わる最重要事項です。事故が発生してからでは取り返しがつかないため、予防的な対策を徹底する必要があります。
特に重要なのは、保険加入の確認です。
社長は職人さんの特別加入などの労災保険の加入状況も確認しておきましょう。
4. 契約不適合責任に関する条項
よくあるトラブル事例
防水工事の不具合
Gリフォーム株式会社では、バルコニーの防水工事後に雨漏りが発生
状況
- 工事完了から6ヶ月後に雨漏りが判明
- 原因が防水工事の不具合か経年劣化か判断が難しい
- 補修範囲を巡って見解の相違
結果
- 調査費用の負担で紛争
- 補修工事の範囲で折り合いつかず
- 法的手続きに発展
必要な記載事項
第○条(契約不適合責任)
1. 甲は、本件業務の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、乙に対し、目的物の補修による履行の追完を請求することができる。
2. 前項の不適合を発見したときは、甲は、発見した日から●日以内に乙に通知しなければならない。
3. 第1項の規定にかかわらず、以下の事由による不適合については、乙は責任を負わないものとする。
(1) 通常の使用による損耗
(2) 甲の指示に起因する不具合
(3) 甲が支給した材料の品質に起因する不具合
(4) 不可抗力による損害
4. 補修に要する費用は、原則として乙の負担とする。ただし、不適合が甲の責めに帰すべき事由による場合は、甲の負担とする。
5. 本条に基づく契約不適合責任の存続期間は、引渡し後1年間とする。ただし甲が本件業務の目的物の引き渡し時に契約不適合箇所があることを知り又は重大な過失により知らなかった場合は、この限りでない。
契約不適合の定義
- 具体的な品質基準
- 許容される誤差
- 検査基準
- 仕上がりの基準
通知期限
- 不具合発見時の通知期限
- 通知方法
- 調査方法
- 記録の保管
補修対応
- 補修義務の範囲
- 費用負担
- 補修方法の選択
- 工期の設定
免責事項
- 経年劣化
- 使用による損耗
- 不適切な使用
- 不可抗力
リスク対策のポイント
2020年4月の民法改正により、これまでの「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」に変更されました。これは単なる名称変更ではなく、契約で定めた内容に適合しているかどうかが判断基準となります。
そのため、契約書には具体的な品質基準を明記することが重要です。例えば、クロスの仕上がりであれば、「壁面の凹凸が○mm以内」といった具体的な数値基準を設定します。
また、不具合が発見された場合の対応手順も明確にしておく必要があります。特に、調査費用の負担や補修方法の選択権について、事前に取り決めておくことが重要です。
免責事項についても具体的に定める必要があります。特に、経年劣化や使用による損耗については、どの程度まで通常の範囲内とするかを明確にしておくべきです。
5. 材料・工具の管理に関する条項
よくあるトラブル事例
支給材料の破損
Iリフォーム株式会社では、高級システムキッチンの施工で問題が発生
状況
- 支給されたキッチンパネルを職人が破損
- 保管場所が明確に定められていなかった
- 破損時の費用負担が不明確
結果
- 材料費30万円の負担を巡って対立
- 納期遅延による工期の遅れ
- 施主様からのクレーム
必要な記載事項
第○条(材料・工具の管理)
- 甲が支給する材料(以下「支給材料」という)は、別紙「支給材料リスト」に記載のとおりとする。
- 乙は、支給材料の受け取り時に、数量及び品質を確認し、受領書を甲に提出するものとする。
- 乙は、支給材料を善良な管理者の注意をもって保管し、本件業務以外の目的に使用してはならない。
- 支給材料の破損または紛失があった場合、乙は直ちに甲に報告し、その責めに帰すべき事由による場合は、乙の費用で補償するものとする。
- 残材の処理方法及び費用負担については、甲乙協議の上決定する。
材料の管理
- 支給材料の特定
- 受け渡し時の確認方法
- 保管場所と方法
- 破損時の責任
残材の取扱い
- 残材の所有権
- 処分方法
- 費用負担
- 報告義務
管理記録
- 日常点検
- 使用記録
- 異常報告
- 写真記録
リスク対策のポイント
材料・資材の管理は、工事の円滑な進行と予期せぬ損失の防止に直結します。特に高価な材料・資材のについては、受け渡し時の確認と記録が重要です。
実務上効果的なのは、チェックリストを活用した受け渡し確認です。材料や工具の状態を写真で記録しておくことで、万が一のトラブル時にも対応がスムーズになります。
また、保管場所と方法を具体的に指定することも重要です。特に、複数の業者が出入りする現場では、責任の所在を明確にするために、専用の保管スペースを設けることをお勧めします。
残材の取扱いについても、事前の取り決めが必要です。特に、高価な材料の残材については、その所有権と処分方法を明確にしておくことで、トラブルを防ぐことができます。
6. 検査・確認体制に関する条項
よくあるトラブル事例
中間検査の未実施
Kリフォーム株式会社では、外壁塗装工事で重大な問題が発生。
状況
- 下地処理の確認を省略
- 工程を急ぐあまり養生期間不足
- 記録写真の不備
結果
- 塗装の剥離が発生
- やり直し工事が必要に
- 多額の補修費用が発生
必要な記載事項
第○条(検査)
1 手直し工事に要する費用は、原則として乙の負担とする。ただし、甲の責めに帰すべき事由による場合は、この限りでない。
2 甲は、以下の時点で検査を実施するものとし、乙は、これに立ち会わなければならない。
(1) 主要な工程の完了時 (2) 隠蔽部分の施工完了時 (3) 工事完了時
3 乙は、各検査に先立ち、必要な検査資料を作成し、甲に提出しなければならない。
4 検査の結果、不合格となった場合、乙は、甲の指示に従い、速やかに是正措置を講じなければならない。
5 乙は、工事の進捗状況を記録した写真を撮影し、工程ごとに甲に提出するものとする。
中間検査
- 検査時期
- 検査項目
- 合格基準
- 記録方法
完了検査
- 検査手順
- 判定基準
- 立会確認
- 是正方法
記録管理
- 写真撮影
- 報告書作成
- 記録の保管
- 提出時期
手直し対応
- 指摘事項の処理
- 期限設定
- 費用負担
- 再検査
リスク対策のポイント
検査・確認体制は、品質管理の要となる重要な要素です。特に、後から確認が困難となる部分については、中間検査と記録の作成が不可欠です。
実務上重要なのは、検査基準の具体化です。「仕上がりが良好であること」といった抽象的な基準ではなく、可能な限り数値や写真等で具体的な基準を示すことが望ましいです。
また、スマフォの普及により、写真による記録が容易になっています。工程ごとに写真で記録しておくことは、トラブル防止には非常に効果的です。
手直し工事が必要となった場合の対応についても、あらかじめ定めておくことが重要です。特に、費用負担と工期への影響については、明確な取り決めが必要です。
7. 工程管理に関する条項
よくあるトラブル事例
事例1:工期遅延トラブル
Mリフォーム株式会社では、マンションリフォーム工事で深刻な工期遅延が発生
状況
- 前工程の遅れが影響
- 資材の入荷遅延
- 進捗報告が不十分
結果
- 引越しスケジュールに影響
- 遅延損害金の請求
- 施主様との関係悪化
必要な記載事項
第○条(工程管理)
- 乙は、着工前に詳細な工程表を作成し、甲の承認を得るものとする。
- 乙は、毎週土曜日に進捗状況を甲に報告するものとし、遅延が見込まれる場合は、直ちに甲に報告しなければならない。
- 以下の事由により工期の変更が必要となった場合、甲乙協議の上、工期を変更することができる。
(1) 天候不良により作業が不能となった場合 (2) 甲の指示により工事内容が変更となった場合 (3) その他、甲乙いずれの責めにも帰さない事由による場合 - 工期変更に伴う増加費用の負担については、その原因に応じて甲乙協議の上決定する。
- 乙は、日報を作成し、作業内容、使用材料、作業人員等を記録するものとする。
工程管理
- 工程表の作成
- 進捗報告の方法
- 遅延対策
- 調整会議
工期変更
- 変更手続き
- 協議方法
- 費用負担
- 書面化
天候対策
- 判断基準
- 代替日程
- 養生方法
- 連絡体制
進捗管理
- 日報の作成
- 週間報告
- 月間報告
- 写真記録
リスク対策のポイント
工程管理は、工事の採算性と顧客満足度に直結する重要な要素です。特に、他の業者との調整が必要な工事では、きめ細かな進捗管理が不可欠です。
また、天候不良等の不可抗力による工期変更については、判断基準と手続きを明確にしておく必要があります。特に、外装工事等では、天候による作業制限を考慮したスケジュール管理が重要です。
進捗報告については、定期的な報告に加えて、問題発生時の臨時報告ルールも定めておくべきです。早期の情報共有により、対策の検討と実施が可能となります。
まとめ
今回は、住宅リフォーム会社の社長に向けて、外注の職人さんとの業務委託契約書で気を付けるポイントを7つ解説しました。
これらの条項を適切に盛り込んだ業務委託契約書を作成することで、以下のメリットが期待できます。
- トラブル発生時の対応が明確になる
- 責任の所在が明確になる
- 品質管理が容易になる
- コスト管理が適切になる
- 職人さんとの信頼関係が強化される
ただし、ここで紹介した条項はあくまでも基本的な内容です。実際の契約書作成にあたっては
- 工事の規模や特性に応じた調整
- 法的な観点からのチェック
- 実務的な運用可能性の確認
- 定期的な見直しと更新
が必要となります。
ここまでお読みになり「契約書にここまで細かく取り決めできるわけないだろう!」
そう感じられたかと思います。
仰るとおりです。
本記事でご紹介した、雛形条項は「盛り込んでおけば効果的」なものをご紹介しているにすぎませんので、この中から貴社の実情に合わせて必要なものだけをピックアップしていただいてもかまいません。
職人さんとの関係性もあると思いますので、あまりにもギチギチに定めすぎない方がよい場合だってあります。
いずれにしましても、施工不良や金銭支払などは業務委託契約ではよくあるトラブルですから、これらのトラブルを抑えながら、かつトラブルが起きても迅速に解決できるような契約書面を作成することが重要です。
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