不動産事業のエリア拡大を検討しているんだけど、営業マンは自社で直接雇用するんじゃなくて不動産エージェントとフルコミの業務委託契約をしたいんだよね。
なるほど、フルコミだったら会社は社会保険を負担する必要はないですからね。
ところで外注の不動産エージェントと結ぶ業務委託契約書はもう作ったの?
そこで困ってるの。
不動産エージェントの業務委託契約書なんて作ったことがないから何から手を付ければいいのか分からないよ。
分かりました。
それでは今回は、不動産会社様向けに、外注の不動産エージェントの業務委託契約書の作成方法と気を付けるポイントを13個解説します。
業務委託契約でも宅建業法違反に注意
不動産会社が、不動産エージェントと業務委託契約を締結する際に、最も重要な点を先に解説します。
従業者証明書と名簿登録の義務
雇用形態に関わらず、会社の名のもとに活動するエージェントは法律上「従業者」とみなされます。
そのため業務委託契約であっても、不動産エージェントは従業者証明書の携帯と従業者名簿への登録が必須となります。
これを怠ると、法令違反として行政処分の対象となる可能性があります。
専任の宅地建物取引士としての制限
例えば、代表者が専任取引士を兼務する小規模不動産会社の場合、業務委託エージェントは4人までしか雇用できないことになります。
宅地建物取引士の勤務先届出義務
業務委託エージェントが宅地建物取引士資格を持つ場合、その者を宅地建物取引士として業務に従事させるには、勤務先登録が必要です。これにより、専任でなくとも宅建士固有の業務を行うことが可能になります。
高額な歩合報酬と名義貸しのリスク
極端に高い歩合報酬(例:仲介手数料の8割以上)を設定すると、名義貸しとみなされるリスクが高まります。
適切な経営管理の観点からも、不動産エージェントへの報酬は売上の5割以下に抑えるべきです。また全ての売上は必ず会社名義で受け取るようにしましょう。
業務委託契約は民事上や税務上のメリットがあるかもしれませんが、宅建業法上は完全に「合法」とは言えない側面があります。地域によっては即座に「名義貸し」と判断される可能性もあるため、慎重な対応が求められます。
これらの点に留意し、法令を遵守しながら適切な契約関係を築くことが重要です。
不明な点、曖昧な点がある場合は、必ず管轄の行政庁に確認を取ってから業務委託契約書を締結しましょう。
不動産エージェントの業務委託契約におけるリスクと対策
不動産エージェント業務委託契約書
○○不動産株式会社(以下「甲」という。)と△△△△(以下「乙」という。)は、以下のとおり不動産エージェント業務委託契約(以下「本契約」という)を締結する。
雇用関係の誤解を防ぐリスク
外注の不動産エージェントと業務委託契約を締結する際、最も注意すべきリスクの一つが、雇用関係の誤解です。
エージェントが自身を会社の従業員と誤解したり、逆に顧客がエージェントを正社員だと勘違いしたりする可能性があります。これは労働問題や顧客とのトラブルにつながる可能性があります。
対策
このリスクを防ぐために契約書で、以下の点を明記します。
- 不動産エージェントは、事業主から独立した事業主体であること
- エージェントは業務においては単独で責任を負い、いかなる場合でも甲に雇用されるものではないこと
- いかなる表明によっても拘束されるものではないこと
効果
この条項により、エージェントの立場が明確になり、雇用関係の誤解を防ぐことができます。
エージェント自身も独立した事業主であることを認識し、責任を持って業務に当たることが期待できます。
業務範囲の不明確さによるリスク
不動産エージェントに任せる業務範囲が不明確だと、期待される業務と実際の業務にギャップが生じ、エージェントは効率的にな業務をこなすことが難しくなる可能性があります。
対策
このようなリスクを防ぐためには、契約書の冒頭部分で、不動産エージェントの具体的な業務内容を詳細に列挙します。
以下は、フルコミの不動産エージェントとの業務委託契約書における一般的な委託内容です。
(1)客付関連業務 物件検索、顧客対応、媒介契約締結業務等
(2)元付関連業務 市場調査及び不動産調査(役所調査・現地調査)、インスペクション、広告や販促宣伝活動等
(3)契約関連業務 不動産売買契約書及び重要事項説明書の作成、代金決済、司法書士連携、物件の引き渡し業務等
(4)顧客管理業務 顧客データベースの管理・更新等
(5)定期的な甲への報告及び甲が開催する会議若しくは勉強会への参加
(6)前各号に付随する一切の業務」
効果
上記のように、業務範囲を具体的に明記することで、エージェントの責任範囲が明確になり、業務の漏れや重複を防ぐことができます。
また報酬の基準が明確になるので、不動産会社もエージェントを公平に評価できるようになります。
法令違反のリスク
不動産取引には多くの法規制があり、これらに違反すると重大な問題につながる可能性があります。
対策
対策として、契約書で以下の点を盛り込みます。
- 不動産エージェントが宅地建物取引士としての業務を行う場合、宅建業法その他の関連法規を遵守すること
- 宅地建物取引業法に違反する行為を行わないこと
効果
契約書で法令遵守の義務を明確にすることで、エージェントの法令遵守意識を高め、法令違反のリスクを抑制します。
報酬に関するトラブル
第●条(報酬)
甲は乙に対し、本業務の対価として、以下の報酬(消費税込み)を支払うものとする
冒頭でも解説しましたが、高額な歩合報酬を設定することは業務委託契約性が薄れるため危険です。
このため、不動産エージェントへの報酬は売上の5割以下に抑えるべきです。
また、紹介のみのトス営業の場合や客付けから引き渡しまで完了した場合など、業務の履行割合に応じた柔軟な報酬設定をしましょう。
紹介のみ:媒介手数料の●%
客付から引き渡しまで:媒介手数料の●%
税務上のリスク
外注エージェントは一人の個人事業主としてきちんと確定申告をおこなってもらう必要があります。
適切に確定申告を行わないと、会社側にも税務上の問題が及ぶ可能性があります。
対策
対策として契約書で、不動産エージェントには、
- 個人事業の開業届及び青色申告申請書を税務署に提出し、適正な確定申告を行うこと
- エージェントが確定申告を適正に履行せず事業主に損害を与えた場合は、事業主に対して損害を賠償しなければならないこと
などを盛り込みます。
効果
エージェントに確定申告の義務があることを明確にし、適切な税務処理を促すことができます。
また、会社側の税務リスクも軽減できます。
業務上の事故や損害賠償のリスク
外注の不動産エージェントが業務中に事故に遭い怪我をしたり、顧客に損害を与えたりした場合の責任の所在は、エージェントと会社、どちらにあると思いますか?
正解は、エージェントです。業務委託契約ですから当然のことです。不動産エージェントには労災保険は使えませんし、顧客に損害を与えた場合でも、原則会社側には使用者責任はありません(※ただし業務委託契約とはいえ会社側が100%免責されない可能性もあります)
しかし不動産エージェントが、雇用契約と業務委託契約の違いを理解していない場合、事故の際に責任の所在で会社側とトラブルになる可能性があります。
対策
対策として、契約時に会社側が不動産エージェントに、雇用契約と業務委託契約の違いを説明することが重要です。
また契約書においては
- エージェントが怪我をした場合の治療費は原則自己負担であること
- 顧客への損害賠償責任は、原則エージェントにあること
などを明記します。
またエージェントに対して、宅建士の賠償責任保険への加入を義務付けることも有効です。
効果
上記の条項を盛り込むことにより、業務上の事故や損害賠償に関する責任の所在を明確にし、会社側のリスクを軽減することができます。
競業避止に関するリスク
第●条(競合避止義務)
乙は、本契約期間中及び本契約終了後、●ヶ月間、甲の事前の書面による承諾なくして、以下の行為を行ってはならない。
甲の本店所在地から半径●km以内に、自ら宅地建物取引業を開始すること
外注エージェントが契約終了後すぐに競合他社に移ったり、独立して近隣で不動産事業を始めたりすることで、顧客を奪われるリスクがあります。
対策
対策として、契約中や契約終了後●年は、会社の近くで不動産事業を始めないことや、会社の競合他社へ業務委託契約を乗り換えることなどを禁止します。
ここでの注意点として、この避止義務の規定が以下の2点に抵触しないように気を付ける必要があります。
- 外注の不動産エージェントの職業選択の自由を不当に制限するものではないこと
- エージェントの正当な利益を保護する範囲内で適用されるものであること
効果
この条項により、契約終了後一定期間は、不動産エージェントが近隣での競業を制限することができ、顧客の流出を防ぐことができます。
ただし、繰り返しになりますが、エージェントの職業選択の自由を不当に制限しないよう、適用範囲を合理的な範囲に限定する必要があります。
契約違反時のリスク
第●条(損害賠償)
甲及び乙は、解除、解約又は本契約に違反することにより、相手方に損害を与えたときは、その損害の全て(弁護士費用及びその他の実費を含むが、これに限られない。)を賠償しなければならない。
外注の不動産エージェントが契約に違反した場合、会社側が損害を被る可能性があります。
対策
対策として、エージェントが契約違反を犯した場合に違約金を支払い、さらに会社に損害が発生した場合は、違約金とは別に損害賠償請求できる旨を規定します。
なお、違約金に法外な金額を設定する場合は公序良俗違反として無効になる可能性があります。
違約金を定めること自体は違法ではありませんが、その金額に根拠を示すことができるようにしておきましょう。
また損害賠償条項は、損害額の全てを賠償させるのか、損害額に上限を設けるのかは当事者の合意により決定します。
このとき、不動産会社であるあなたが、エージェントに対して過度な損害賠償額を請求可能とすると、エージェントが契約自体を避けてしまうこともあります。
違約金と損害賠償条項、両者のバランス設定が肝となります。
まとめ
今回は、不動産会社の事業者様向けに、外注の不動産エージェントとフルコミの業務委託契約を締結する際のリスクと契約書でできる対策について解説しました。
フルコミの不動産エージェントとの業務委託契約には、様々なリスクが存在します。
しかし、適切な契約条項を設けることで、これらのリスクを大幅に軽減することができます。
具体的には、以下の点に注意して契約書を作成することが重要です。
- 雇用関係でないことを明確にする
- 業務範囲を詳細に規定する
- 会社の信用を守る義務を明記する
- 法令遵守義務を強調する
- 契約解除の条件を明確にする
- 報酬の計算方法と支払いタイミングを詳細に規定する
- 確定申告の義務を明記する
- 業務上の事故や損害賠償の責任を明確にする
- 機密保持義務を設ける
- 競業避止義務を適切に設定する
- 契約違反時の違約金や損害賠償について規定する
これらの条項を適切に設定することで、外注の不動産エージェントとの協力関係をより安全かつ効果的なものにすることができます。
外注の不動産エージェントをWin-Winの関係を構築して、不動産ビジネスを効率的に拡大させましょう。
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