私が行政書士になった流れを5行でまとめるとこうだ。
- 自動車ディーラーの仕事ブラック過ぎ、辞めたい
- 転職するなら次は「ノルマなし」「土日祝休み」の緩い職場にしよう
- いざ転職。
「え、この会社、いくら成果挙げても歩合給も昇給なし?」
「努力する意味ないよね?もういい、自分で稼ぐわ」 - そうだ、行政書士になろう
- 勉強→受験→合格→開業
ザックリした説明ではあるが、だいたいこんな感じだ。
今回は、上記「4.そうだ行政書士になろう」をもう少し深掘りするお話。
高校生の頃、たまたま手に取った一冊の漫画
行政書士になってから思い出したのだが(決して後付けではない)、私は二十歳の時点で『行政書士』という資格に興味を持ち「いつか自分も行政書士になるかもしれない」とぼんやりと考えていた時期があった。
私には歳が3つ離れた兄がいて、私が高校生の頃、兄は大阪で大学生活を送っていた。
一度、兄を訪ねて大阪まで遊びに行ったことがある。
大阪の淀川を挟んだ京都側、幹線道路から2区画ほど奥に入り組んだ住宅街の一角にアパートがあり、兄はそこで一人暮らしをしていた。
私は数週間ほど兄のアパートに滞在し、その間兄は、昼間は梅田や心斎橋、深夜はビリヤードやクラブへと、私を色々な所へ連れ出してくれた。
週に数日、兄は夜になるとアルバイトへ出掛けていく。
兄のいない夜は暇だった。
当時、田舎の高校生だった私は、1人で大阪の夜の街に繰り出す勇気もないので、ずっと部屋にこもって兄が帰宅するのを待っていた。
その間何をしていたかと言うと、ひたすら部屋にあった漫画を読んでいた。
人の家の本棚は面白い。絶対に自分が読まないであろうジャンルを発見できるからだ。
その中から、なんとなく手に取った漫画が『ナニワ金融道』だった。
手形の裏書?連帯保証人?抵当権?
私は『ナニワ金融道』を読んで、人生で始めて『法律』に出会うことになる。
ナニワ金融道は、事業者ローン会社で働く金融マンが、法律の網目を潜りながら債権と利息を回収していく過程で、人間の欲望と脆い本質をリアルなまでに描き出した悲劇の人情漫画である。
作中では「手形のサルベージ」、「連帯保証人」、「1番抵当」などの法律用語が随所に散りばめられ、当時高校生だった私にはサッパリ内容を理解できなかった。
「漫画なのになんでこんなに意味が分からないんだ??」と思った。
しかし、法律用語の1つひとつは理解できなくとも全体を読み終えて分かったことが2つある。
- 人間の欲深さには際限がなく、そして人間の意志はとてつもなく弱く、そして脆い
- 法律を知らない者は弱者であり、弱者は強者から搾取される
登場人物は皆、共通点があり、それは総じて「金に欲深く、そして法律をあまりにも知らなさ過ぎる」ことだった。
欲深いくせに法律を知らないので、暴利な消費者金融から融資を受けたり、手形に裏書きしたり、デリバティブな金融商品に手を出したり、連帯保証人になったり、不動産を抵当に入れたりして借金が膨らんでいく。
その借金を返済するために、他の消費者金融から追加融資を受けるなどしてやがて返済できずに身ぐるみを全て剥がされてしまう。
民法や会社法の知識ゼロの高校生が読むには相当苦労したが、私はなんとか部屋に積んであった『ナニワ金融道』を読了した。
読み終えた後は「法律を知らないと騙されるんだなあ、危ないなあ、こわいなあ」という感想だった。
ちょうど読み終えたときに兄がアルバイトから帰宅したので、私は『ナニワ金融道』の感想を伝えたところ、このような返事が返ってきた。
「そうなんだよ。だから法律は面白いんだ。」
このとき初めて、自分の兄が『法学部』に在籍していることを知る。
労働基準法?内容証明?支払督促?
兄を追いかけるようにして、私も高校を卒業すると同時に大阪の大学へ進学した。
そして大学2年生、ちょうど二十歳のときだ。
兄から電話があって「『ナニワ金融道』の作者が監修した漫画が新しく出たぞ」と教えてもらった。
その漫画も、ナニワ金融道と同様に法律用語がてんこ盛りの漫画らしい。
ナニワ金融道が面白かったので、その作者が監修した漫画なら絶対に面白いだろうと確信していた。
そう、『カバチタレ!』だ。
『カバチタレ!』は、行政書士を目指す若者が行政書士事務所で勤務しながら、事業者や一般市民の様々な生活のトラブルを法律を駆使して解決していく職業漫画。
カバチタレ!は第一話が衝撃的過ぎて、初めて読んだときのことを今でも鮮明に覚えている。
会社を不当解雇され給料が1円ももらえずに絶望的になっている主人公が、偶然一人の行政書士と出会う。
彼に事情を説明すると、行政書士は不当解雇した社長に内容証明郵便を送り、その結果、未払賃金と即時解雇による給料合計50万円を支払わせることに成功する。
第一話から内容がテンコ盛り過ぎて、最初に読んだときは胸の鼓動が若干激しくなったことを覚えている。
要約すると以下のとおりだ。
- 経営者が独自で社内ルールを定めても、労働基準法を下回る部分があれば無効である
- 社員を即時解雇するなら1ヶ月の給料(解雇予告手当)を支払うか、支払わない場合は解雇より30日以上前に解雇予告しなければならない
- 内容証明郵便という書面の送り方がある
- 内容証明郵便は債務の履行を促す手段として有効である
- 法律を知らない者は弱者であり、弱者は強者に搾取される
ナニワ金融道を読んだときもそうだったが「法律を知らない者が損をする」という共通の感想だった。
当時大学生だった私は、カバチタレ!を読んで『行政書士』という法律資格があることを初めて知り、そして法律資格に対して強烈に興味を抱いた。そして、こんなことをぼんやりと考えていた。
- 法律を知らないと損をする
- 無知は弱者で、弱者は強者に搾取される
- 多くの人間は『弱者』だ
- 行政書士になれば弱者を救済することもできる
- いつか自分も行政書士になるかもしれない
しかし、読了後に直ぐに書店に走って行政書士の参考書を買うことはなかったし、就職も法律事務所ではなく「何となく楽そう」という理由だけで自動車ディーラーの仕事に就いた。
そこから20年間、私の中で『行政書士』は眠り続けた。
眠っていた行政書士が再び目を覚ます
20年近く眠っていた行政書士資格が再び目を覚ます。
キッカケとなったのが、自動車ディーラーからの転職先だった。
次こそは、ノルマ無し・土日祝休みの「人間らしい生活」を送れる会社に転職しようと考えていたのだが、実際に働いてみると絶望的に仕事が面白くなかった。
仕事の内容は、ルート営業。
ノルマがなかったのは精神的には楽で良かったのだが、その反面どんなに売上げや成果を挙げても1円も奨励金がもらえなかったし、2年目の昇給額はたったの650円だった。
そのときは本当に膝から崩れ落ちそうになった。
こんな環境ではやり甲斐もクソもない。
何かを期待せずに心を無にしてロボットの様に、日々与えられた仕事だけを淡々とこなせば毎月定額で最低限の給料がもらえるから、割り切って続けることもできただろうが、私には無理だった。
なお、まともに昇給もない会社に骨を埋める覚悟のある方は、仕事はテキトーにこなしておけばいい。
ノルマのない会社に転職してみてようやく判明したのだが、私はどうも人生に意義や、やり甲斐、結果、成果を求める性格だったらしい。
思い返してみると、自動車ディーラーで働いていたときは『会社と職場環境』がブラック体質であって、お客との折衝やアフターフォローはむしろ楽しかった。
何よりお客さんから「あなたから車を買って良かった」と言ってもらえた時は充実感に満たされていた。
やはり人間には承認欲求が必要だと思う。
承認欲求については下記の記事に詳しく書いている。
そこで色々と考えた。
「これなら以前のブラック企業の方がマシだったのか?」
「いやいや、あんな奴隷の様な扱いを受ける生活には二度と戻りたくない」
「だったらもう自分で稼ぐしかない」
「自分は何が得意?どんな価値を顧客に提供できる?」
「そうだ!大学生の頃に『カバチタレ!』を読んで行政書士に強烈に興味を抱いていたじゃないか。行政書士だ。行政書士なら自分の得意領域で働きながら人に価値を提供でき、そして対価として報酬を得ることができる。」
この様にして、冒頭の4.そうだ、行政書士になろう、に帰結するのであった。
思考は実現化する
高校生の頃に『ナニワ金融道』で法律の世界を知り、そして二十歳の頃に漫画「カバチタレ!」に出会い、一度は行政書士になる自分を想像したがそのときは実現しなかった。
しかしその20年後に行政書士になったのだから驚きだ。
ナポレオン・ヒルではないが、思考は実現化するんだなぁと自身を振り返ってそう感じる。
私の場合、20年間行政書士になることを毎日念じていたわけではないのでナポレオンとは多少異なるが、それでも潜在意識に眠っている思考は決して消滅することはなく、何十年経ってもキッカケさえあれば化学反応を起こして呼び覚まされることもあるのだろう。
野球選手のイチローも大谷翔平も、サッカーの中田英寿も本田圭佑も皆、小学生の頃に、将来自分がプロとして活躍している姿をノートに書き残している。
それらの事実を鑑みると、やはり思考は現実化するのだろう。
実際私も、行政書士になることを決意してからは、自分が行政書士になったときの事務所名、名刺、ホームページのデザイン、事務所のレイアウト、仕事着、靴、カバンなどを想像しながら鮮明に描けるほどいつも脳内でスケッチしていた。
また、実際にノートに名刺のラフ案を描いたり、独立開業後に訪れたい場所の写真をグーグルフォトに入れて毎日眺めたりしていた。
また、人に合うときは必ず「11月に行政書士試験を受けて、合格したら独立するんです」と伝えていた。
この様にして、とにかく行政書士になった自分を思い描きながら1年間過ごしてしていた。
思考が現実化したのかは科学的に定量できないので何とも言えないが、多少影響はあったと思う。
まとめ
今回は、私が行政書士資格と出会うことになったキッカケ、そして実際に行政書士になるまでの『思考』について詳しく記した。
決して「思考は現実化する」を伝えたかったわけではない。
単に「行政書士とは何かしらご縁があったのだろうな」という感想に過ぎない。
しかしご縁とは不思議なもので、人生を左右する。
行政書士になれたおかげで人生が好転した。
売上げのことはさておき、現在は自動車ディーラーで勤務していたときより100倍幸せだ。
高校生の頃にたまたま手に取った漫画『ナニワ金融道』それを部屋に置いていてくれた兄に感謝したい。
行政書士に興味をもった方は、拙書『LAST HOPE 開業一を年目の行政書士が観た景色』を是非読んでほしい。
開業一年目の厳しい現実を赤裸々に書き記している。