営業代行会社を立ち上げるんだけど、クライアントと交わす契約書はどんな点に気を付けて作成すればいいかな?
営業代行の契約では、業務範囲や報酬規定をキッチリ定めておかないとトラブルが起きやすいですよ。
今回は、営業代行会社様に向けて、営業代行委託契約書の作成方法や注意点について解説します。
1. 報酬・手数料に関するトラブル
事例
A社は、B社の製品の営業代行を請け負うことに。
契約では「成果報酬制」とだけ記載されていましたが、具体的な計算方法や支払いのタイミングが明記されていなかった。
3ヶ月後、A社は10件の新規契約を獲得したが、B社は「まだ相手から入金がない」として報酬の支払いを拒否。
両社の関係が悪化し、法的争いに発展する。
対策
入金トラブルを避けるために、契約書には以下の点を明確に記載しましょう。
- 成果の定義
(例:新規契約締結につき、契約金が入金完了につき、など) - 報酬の計算方法
(例:契約金額の10%、固定報酬+成果報酬など) - 支払いのタイミング
(例:毎月末締め翌月15日払い、契約金入金後30日以内など) - 報酬の上限や下限がある場合はその金額
- 長期的なインセンティブ構造
(例:年間目標達成でボーナスなど)
第X条(報酬)
1. 甲(クライアント)は、乙(営業代行会社)に対し、以下の報酬を支払うものとする。
a) 基本報酬:月額XX万円(税別)
b) 成果報酬:新規契約1件につきYY万円(税別)
2. 前項の報酬は、毎月末日に締め切り、翌月15日までに乙の指定する銀行口座に振り込むものとする。
このように報酬規定を具体的に定めることで、確実な入金を促すことできます。
2. 営業エリア・対象の範囲
事例
C社は、D社の営業代行を全国規模で行う契約を締結。
しかし、契約書には具体的な営業エリアや対象業界の記載がない。
C社が首都圏以外の地域や、D社が想定していなかった業界にも営業をかけたことで、D社から「意図していない顧客層への営業だ」とクレームが入り、関係が悪化。
対策
このようなトラブルが起きてしまうのは、契約書で営業エリアや除外すべきエリアを定めていなかったからです。
契約書には以下の点を明確に記載しましょう。
- 営業活動を行うエリア(例:全国、特定の都道府県、市区町村など)
- 対象とする業界や企業規模
- 除外すべき競合他社や業界がある場合はその明記
- 新たなエリアや業界への展開を検討する際の手続き
なお、上記項目を契約書の中で全て明記することが難しいケースがあると思います。
その場合は、「営業エリア、ターゲット、営業戦略等は別紙にて定めるものとする」としてもかまいません。
第Y条(営業エリアおよび対象)
1. 乙は、以下のエリアおよび対象に対して営業活動を行うものとする。
a) 営業エリア:東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県
b) 対象業界:製造業、小売業
c) 対象企業規模:従業員数50名以上、年商10億円以上
2. 前項に定める以外のエリアや対象への営業活動を行う場合は、事前に甲の書面による承諾を得るものとする。
3. 以下の企業に対しては、営業活動を行わないものとする。
ここまで営業エリアやターゲット規模を明確に定めることで、両者の認識のずれを防ぎ、効果的な営業活動が可能になります。
3. クライアントの協力義務
事例
G社は、H社の営業代行を行っていたが、H社からの必要な情報や資料の提供が滞り、効果的な営業活動ができなかった。
G社が再三の要請をしても改善されず、結果として成果が上がらず、報酬の支払いを巡ってトラブルに発展。
対策
営業代行委託契約は、クライアントと営業代行会社の協働が欠かせません。
どちらか一方の協力姿勢が欠けていては効果的な成果を挙げることができません。
これらを踏まえて、契約書には以下の点を明確に記載しましょう。
- クライアントが提供すべき情報や資料の具体的な内容
- 情報提供のタイミングや方法
- クライアントが協力義務を怠った場合の対応
(例:納期の延長、追加費用の請求など) - 定期的な情報共有や進捗確認の機会の設定
第W条(クライアントの協力義務)
1. 甲は、乙の本業務遂行に必要な以下の情報および資料を、適時に提供するものとする。
a) 製品・サービスのカタログ、仕様書
以下省略
このような条項を設けることで、クライアントの協力を促し、スムーズな業務遂行を目指します。
4. 成果の定義や評価基準
事例
I社は、J社の営業代行を行う契約を締結。
契約では「新規顧客の獲得」が目標とされていたが、具体的な数値目標や評価基準が定められていなかった。
3ヶ月後、I社は5社の新規顧客を獲得したが、J社は「期待していた成果ではない」として報酬の減額を要求。
両社の認識の違いからトラブルに発展。
対策
このようなトラブルが起こるのは、契約書で具体的な目標数値を定めていなかったからです。
クライアントと目標(ゴール)を共有することが重要ですので、契約書で以下の点を明確に記載しましょう。
- 具体的な成果目標
(例:新規契約件数、売上金額など) - 評価期間
(月次、四半期、半期など) - 目標達成時のボーナスや未達時のペナルティ
(設ける場合) - 成果の測定方法や報告手順
- 目標の見直し方法や頻度
第V条(成果目標と評価)
1. 本契約における成果目標は以下の通りとする。
a) 新規契約獲得件数:四半期ごとに10件以上
b) 新規契約による売上金額:四半期ごとに1,000万円以上
2. 前項の成果目標は…以下省略
このように具体的な数値目標と評価基準を設けることで、両者の認識を一致させ、公平な評価が可能になります。
5. 業務範囲の逸脱
事例
K社は、L社の営業代行を請け負ってたが、L社から「顧客からのクレーム対応も行ってほしい」と急に依頼される。
契約書には営業活動のみが業務範囲として記載されており、K社はこの追加業務に対する報酬を要求。
しかし、L社は「営業の一環だ」として追加報酬の支払いを拒否し、トラブルに。
対策
業務範囲に関してはトラブルに発展しやすい事項です。
契約書に業務範囲を詳細に定めること範囲外の要求を断ることができます。
- 具体的な業務範囲の詳細
- 範囲外の業務が発生した場合の対応手順
- 追加業務の報酬算定方法
- 業務範囲の変更手続き
第U条(業務範囲)
1. 本契約における乙の業務範囲は以下の通りとする。
a) 新規顧客の開拓および訪問
b) 商談の実施および契約締結のサポート
c) 既存顧客へのフォローアップ営業
2. 前項に定める範囲を超える業務については、原則として本契約の対象外とする。
3. 甲が前項の範囲外の業務を乙に依頼する場合は…以下省略
このような条項を設けることで、業務範囲を明確にし、追加業務を要求された場合でも「それは業務範囲外です」と毅然に対応することができます。
6. クライアントからの一方的な契約解除
事例
M社は、N社の営業代行を6ヶ月の契約で請負うことに。
3ヶ月目にN社から突然「成果が出ていないので契約を解除する」と通告される。
M社は既に多くの時間と労力を投じており、残りの期間の報酬も見込んでいたため、大きな損失を被ることになる。
対策
契約書で定めた期間満了を待たずに、クライアントの自己都合により一方的に契約解除を申出されては困りますよね。
このようなトラブルを防止するためには、契約書には以下の点を明確すると有効です。。
- 契約期間
- 中途解約の条件
(解約可能時期、通知期間など) - 中途解約時の違約金や精算方法
第T条(契約期間および解約)
1. 本契約の有効期間は、契約締結日から1年間とする。ただし、期間満了の1ヶ月前までに甲乙いずれからも書面による別段の意思表示がないときは、同一条件でさらに1年間継続するものとし、以後も同様とする。
2. 前項の規定にかかわらず、甲または乙は、相手方に対して3ヶ月前までに書面で通知することにより、本契約を解約することができる。
3.甲が自己の都合により本契約を即時解除する場合…以下省略
このような条項を設けることで、一方的な契約解除によるリスクを軽減し、双方にとって公平な条件を確保することができます。
特に、即時解除の申し出は決してレアケースではありません。
違約金を設定するなどして、相手方からの急な解約を抑止し、自社の損害の発生を防ぎましょう。
7. 競業避止義務の不履行
事例
O社は複数のクライアントの営業代行を行っていましたが、ある日、P社とQ社の両方から同じ業界の営業代行を依頼される。
O社は両社の依頼を受けたが、後にP社がこの事実を知り、「利益相反だ」として契約違反を主張。
O社との関係が悪化し、営業代行の成果にも影響が生じた。
対策
競業避止は営業代行特有のトラブルです。
委託側企業としては、営業代行会社が競合企業とも契約すれば利益相反になりますし、機密情報が漏洩するリスクもあります。
対策として、契約書に以下の点を明確に記載します。
- 競業避止義務の範囲
(業界、地域など) - 競業避止義務の期間
(契約期間中および契約終了後の一定期間) - 競合他社との取引に関する事前承諾の手続き
- 違反時のペナルティ
第S条(競業避止義務)
1. 乙は、本契約期間中および本契約終了後1年間、甲の事前の書面による承諾なくして、甲と同一の業界において営業代行サービスを提供してはならない。
2. 乙が本条に違反した場合、甲は本契約を直ちに解除することができ、かつ乙は甲に対し、違約金として…以下省略
このような条項を設けることで、利益相反を防ぎ、クライアントとの信頼関係を維持することができます。
ただし、過度に厳しい競業避止義務は営業代行会社の事業を不当に制限する可能性があるため、合理的な範囲で設定することが重要です。
8. 成果が期待外れだった場合の対応
事例
R社は、S社の新製品の営業代行を6ヶ月の期間を定めて契約を締結。
しかし、予想以上に市場の反応が悪く、新規契約数が目標の20%にも達しなかった。
S社は「営業努力が足りない」として報酬の大幅カットを要求。
一方、R社は「市場環境が厳しかった」と主張し、両社の対立が深刻化しました。
対策
コロナウイルスの発生や、ブラックマンデーのような不足の事態は誰も予測することができません。
とはいえ、私たち営業代行会社は常に不足の事態に備えて対策を施しておかなければなりません。
具体的には、契約書に以下の点を明確に記載するとよいでしょう。
- 最低保証報酬と成果報酬の内訳
- 成果が期待を下回った場合の対応手順
(再度の営業活動、契約の見直しなど) - 市場環境の変化など、外部要因による影響の考慮方法
- 中間評価のタイミングと、その結果に基づく契約条件の見直し手続き
第R条(成果未達時の対応)
1. 第V条に定める成果目標の達成率が●%未満の場合、以下の手順で対応するものとする。
a) 甲乙両者による原因分析会議の実施
b) 改善計画の策定と実行(1ヶ月間)
c) 改善後の評価
2. 前項の手続きを経ても改善が見られない場合…以下省略
このような条項を設けることで、成果が期待を下回った場合でも、双方が冷静に対応し、建設的な解決策を見出すことができます。
9. クライアントとのコミュニケーション不足
事例
T社は、U社の営業代行を行っていたが、日々の営業活動の報告を怠ってしまう。
2ヶ月後、U社から「何も成果が出ていないのではないか」と疑念を抱かれ、信頼関係に亀裂が生じる。
実際には、T社は着実に商談を進めていましたが、その事実をU社に伝えていなかったのである。
対策
営業代行契約はクライアントとの信頼関係のうえに成立しますから、綿密な報告が欠かせません。
一定期日ごとに報告・連絡・相談をおこなうなどして、両者の関係構築にも努めましょう。
具体的に契約書には以下の点を明確に記載するとよいです。
- 報告の頻度
(日次、週次、月次など) - 報告の方法
(メール、電話、対面ミーティングなど) - 報告すべき内容
(訪問件数、商談状況、見込み客情報など) - 緊急時の連絡体制
第Q条(報告義務)
1. 乙は、以下の通り甲に対して定期的に報告を行うものとする。
a) 日次報告:営業活動の概要をメールで報告
b) 週次報告:週間の成果と翌週の計画を書面で提出
c) 月次報告:月間の成果と翌月の計画を対面またはオンラインミーティングで報告
2. 前項の報告には、以下の内容を含むものとする。…以下省略
このような条項を設けることで、クライアントと営業代行会社の間で適切なコミュニケーションが確保され、信頼関係を維持することができます。
10. 顧客リストやデータの取り扱い
事例
V社は、W社の営業代行を1年間行い、その間に多くの見込み客情報を蓄積。
契約終了後、V社はこの顧客リストを他の案件にも活用しようとするが、W社から「それは当社の資産だ」としてデータの返還と使用中止を要求される。
両社の認識の違いから、トラブルに発展。
対策
営業代行の委託契約では、顧客リストやターゲット情報の受け渡しが必須となります。
クライアントとしては、報酬に見込み客リストの情報が含まれているものと認識しますので、この点で我々とズレが生じるわけです。
対策として契約書には以下の点を明確に記載しましょう。
- 顧客データの所有権の取り扱い
- データの使用権限と制限
- 契約終了時のデータの取り扱い(返却、削除など)
- データの秘密保持義務
第P条(顧客データの取り扱い)
1. 本契約に基づき乙が収集、作成した顧客リスト、見込み客情報、商談履歴等のデータ(以下「顧客データ」という)の所有権は、●に帰属するものとする。
2. 乙は、本契約の目的遂行のためにのみ顧客データを使用することができ、他の目的での使用は一切禁止する。
3. 乙は、顧客データを第三者に開示、提供、漏洩してはならない。
4. 本契約終了時、乙は甲の指示に従い、保有する全ての顧客データを…以下省略
このように顧客リストの取り扱いについて規定を設けることで、データの所有権の帰属先を明確にし、契約終了後のトラブルを防ぐことができます。
11. 契約期間満了後の取り決め
事例
X社は、Y社の営業代行を2年間行い、契約期間が満了。
しかし、契約更新や終了後の処理について具体的な取り決めがなかったため、進行中の商談の扱いや、X社が開拓した見込み客へのアプローチ権利などを巡って混乱が生じました。
対策
営業代行の委託契約は、代行会社が一定以上の時間を費やして顧客を開拓していきますので、急に契約を解約すると「進行中の案件の引き継ぎをどうするのか?」といった問題が生じます。
成果報酬を定めている場合は、成果が挙がらないと当然報酬を請求できないので、我々としては損失ですよね。
そこで契約書には以下の点を抑えることが重要です。
- 契約の自動更新の有無と条件
- 契約終了の通知期限
- 契約終了時の進行中案件の扱い
- 顧客引継ぎの方法と期間
- 競業避止義務の範囲と期間(必要な場合)
第O条(契約期間満了時の取り扱い)
1. 本契約の期間満了の3ヶ月前までに、甲乙いずれからも書面による契約終了の意思表示がない場合、本契約は同一条件でさらに1年間自動的に更新されるものとし、以後も同様とする。
2. 契約期間満了時に本契約が終了する場合、以下の通り処理するものとする。
a) 乙は、契約終了日までに進行中の全案件について、その状況を甲に書面で報告する。
b) 契約終了日時点で成約に至っていない案件については…以下省略
このような条項を設けることで、契約終了時の混乱を防ぎ、スムーズな業務の引き継ぎが可能になります。
また報酬支払いに関してトラブルを防ぐこともできます。
まとめ
今回は、営業代行委託契約書作成のポイントや注意点を解説しました。
営業代行サービスは、クライアント企業の成長に大きく寄与する可能性を秘めていますが、適切な契約書と運用がなければ、様々なトラブルのもとになりかねません。
本記事で紹介した11のトラブル事例と対策を参考に、綿密な契約書を作成し、クライアントとの良好な関係を構築してください。
本記事で特に重要なポイントをおさらいします。
- 具体的な数値目標と評価基準を設定する
- 報酬体系を明確にし、成果に応じた公平な報酬を設計する
- 業務範囲を明確にし、範囲外の業務への対応方法を定める
- 定期的な報告義務を設け、コミュニケーションを密に取る
- 顧客データの取り扱いや、契約終了後の処理を明確にする
これらの点に注意を払いながら、クライアントと緊密に連携し、Win-Winの関係を築いていくことが、営業代行サービス業の成功につながります。
トラブルを未然に防ぎ、双方にとって価値ある関係性を構築できるよう、本記事の内容を参考に、自社の状況に合わせた最適な契約書を作成してください。
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