クライアントと業務委託契約書を交わすとき、契約書が2号文書(請負契約書)と準委任契約書のどちらに該当するのかよく分からないまま印紙を貼ってるんだよね。
実際、その判断基準が難しいケースはよくあります。
今回は、これから締結する予定の契約書が2号文書(請負契約書)に該当するのか?その判断基準について解説します。
・締結予定の業務委託契約書が2号文書(請負契約書)に該当するのかについて、その判断基準や指標。
印紙税の判断は、税務署の職員の裁量により、実際の契約書の文言や契約の背景、契約当事者の意向などを総合に勘案し、個別具体的におこなわれます。
本記事の内容は、印紙税に関する一般的な内容であること、個別の契約書全てに該当するものではないことをご了承ください。
課税文書の類型を判断するときの注意事項
請負契約と委任(準委任)契約の違い
まず、これから交わす業務委託契約書が「そもそも印紙税の対象となる文書(課税文書)なのか?」を判断するためには、前提として請負契約と委任(準委任)契約の違いについて理解しておく必要があります。
請負契約と準委任契約の違いは下記のとおり。
請負契約 | 委任・準委任契約 | |
---|---|---|
契約の目的 | 受託者が委託された仕事を完成させる | 受託者が委託された事務を処理する |
受託者の義務 | 受託者は仕事を完成する義務を負う | 受託者は善管注意義務を負う |
報酬請求権 | 受託者は仕事を完成した後でなければ報酬を請求できない | 受託者は委任事務を履行した後でなければ報酬を請求できない |
契約解除権 | 委託者は、原則仕事が完成するまではいつでも損害を賠償して契約を解除できる。 | 委託者や受託者はいつでも契約を解除できる。 ただし相手が不利な時期に解除したり、 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得る物を除く)をも目的とする委任を解除したときは損害賠償責任を負う。 |
担保責任 | 受託者は、仕事の目的物が契約内容に適合しなければ担保責任を負う | 規定なし |
報告義務 | 受託者は、報告義務を負わない | 受託者は、委託者の請求があればいつでも事務処理状況を報告し、委任事務の終了後は顛末の報告義務を負う |
印紙税 | 課税文書 | 原則、不課税文書 |
根拠法 | 民法632条~642条 | 民法643条~656条 |
・請負契約は「仕事を完成させること」と「報酬を支払うこと」の2つを約束する契約。
課税文書となり、印紙税を収める。
・委任(準委任)契約は、受託者(仕事を依頼された人)が委託された事務を処理する契約。
不課税文書となり、印紙税を収めない。
以上の前提を踏まえて、これから締結する契約書に収入印紙の貼付が必要なのか、について考えていきます。
契約書のタイトルで課税文書の書類は決まらない
『業務委託契約書』というタイトルの契約書の多くは、「2号文書(請負契約書)」と「7号文書(継続的取引の基本となる契約書)」のいずれかに大別されます。
下記の記事でも解説していますが
・「契約書が2号・7号いずれの文書に該当するのか?」
・「そして実際の印紙税額がいくらになるのか?」
については、契約書のタイトルではなく、契約書の個別具体的な内容から総合的に判断されます。
契約書の内容に、
・「仕事の完成」
・「報酬の支払い」
2つの条項が含まれており、契約の当事者の合意が見て取れるのであれば、その業務委託契約書は2号文書に該当すると判断します。
業務委託契約書
『業務委託契約書』とは、企業や個人が外部の専門家や業者などに業務を委託する時に、業務を委託する側と委託される側との間で締結される契約書のこと。
法律上、『業務委託契約書』という契約書名が存在するわけではありません。
請負契約や準委任契約、基本取引契約などを総称して『業務委託契約書』と呼んでいます。
つまり「業務委託契約書と請負契約書は、それぞれが独立した契約類型だ」と誤った認識をしていると、契約書のタイトルだけを見て「これは業務委託契約書だから請負契約ではない」→「だから収入印紙は不要だな」と判断してしまいます。
重ねて説明しますが、契約書の内容に、
・「仕事の完成」
・「報酬の支払い」
2つの条項が含まれており、契約の当事者の合意が見て取れるのであれば、請負契約(2号文書)に分類される=収入印紙の貼付は必要、となります。
保守・メンテナンス契約書
『保守契約書』とは、機器やサーバー、導入したシステムなどに不具合が生じた場合に、速やかに修理・メンテナンスを委託する内容を記載した契約書のこと。
会社のコピー機のリース契約などを思い浮かべると理解しやすいかと思います。
総称としては『業務委託契約書』に該当しますが、細かくタイトルを決めるとすると「ソフトウェア保守・メンテナンス契約書」や「保守・ライセンス契約書」といった名称が用いられます。特段、タイトルに決まりはありません。
一般的にこれらの保守契約は、請負契約に分類されると解釈されています。
理由は、メンテナンス行為は「対象機器等が正しく作動しているかチェックする」という請負契約本来の趣旨である『仕事の完成』を目的としているからです。
単なるリース契約書であれば、印紙税法上、課税文書には該当しませんが(印紙が不要)、多くのリース契約は、保守・メンテナンス作業まで含まれています。
そして、保守・メンテナンス作業について契約の当事者が合意していることが契約書面から見て取れれば、請負契約(2号文書)に分類される=収入印紙の貼付は必要です。
販売委託契約書
販売委託契約書とは、メーカーが販売業務の全部または一部を小売業者に委託する際に取り交わす契約書。
「特約店契約書」や「売買委託契約書」と呼ばれることもありますが、契約書のタイトルに決まりはありません。
販売委託契約書が、課税文書に該当するのか考えてみましょう。
【メーカー】↔【小売業者】↔【消費者】
結論から言うと、販売委託契約書は2号文書には該当しません=印紙の貼付は不要です。
理由は、メーカーは小売業者に販売を委託しますが、小売業者は何かを完成させることを約束しているわけではないから。
しかしこの場合であっても、一定の条件が揃えば、7号文書(継続的取引の基本となる契約書)に該当します=印紙が必要、となりますので注意が必要です。
なお、小売業者と消費者との間で売買されるものについては「単発の売買契約書」として扱われますので=印紙の貼付は不要です。
注文書・請書
建設業界では頻繁に用いられる『注文書と請書』。
元請け事業者が下請事業者に対して、仕事を発注する際に渡す書類が注文書(発注書)で、下請事業者が元請け事業者に対して契約の承諾の意思表示を示す書類が請書です。
これら2通の文書から、お互いの債権・債務が確定され、契約の当事者が合意していることが見て取れる場合は、2種類の書類を1通の請負契約書とみなして、印紙税が課されます。
実務においては、注文書(発注書)に対して請書を作成した時点で、請契約が成立=印紙を貼る、こととします。
まとめ:正しい印紙税額を収めよう
今回は、これから締結しようとする業務委託契約書が、2号文書(請負契約書)に該当するのか?その判断基準や指標について解説しました。
契約書のタイトルではなく、その内容から個別具体的に判断することが重要でしたね。
万が一、間違った金額の印紙を貼っていたことが後日発覚した場合は、本来収めるべき額の2倍の過怠税が課されます。
企業から仕事を請負うクリエイター様は、この点に注意して業務委託契約書を交わすように気を付けましょう。
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