行政書士で開業しても最初は食えない
何年も諦めずに勉強を続けて、ようやく行政書士試験に合格。
「さぁ開業するぞ!」と意気込んだものの、いざ独立開業を前に急に怖気づいている方は多いのではないだろうか。
- 「行政書士で開業して果たして食えるのだろうか」
- 「廃業したらどうしよう」
- 「安定を失うのがこわい」
- 「家族がいるから絶対に迷惑をかけられない」
- 「失敗したら会社員には戻れない」
- 「借金だけは抱えたくない」
この様に不安になる気持ちは痛いほど理解できる。事実私自身がそうであったからだ。
しかし一言に『独立こわい』と言っても、それに対する不安度合いは人それぞれ置かれた環境によって異なるだろう。
例えば、
- 夫(妻)が会社員で安定収入がある
- 夫(妻)の収入だけで一家が暮らしていくだけの余裕がある
- 行政書士の収入は家計のプラスアルファになればいいかな?程度だ
- 独身実家暮らしだから数万円あれば生きていける
この様な方であれば、別に何ヶ月も受任できなくても痛くも痒くもないので何も恐れることはないだろう。
一方、夫(妻)が専業主婦(夫)やパート収入のみで、一家の大黒柱が会社員を辞めて金もコネも経験もないのに行政書士で独立開業するとなると危険度や恐怖心が天と地ほど違う。
不安になるのも当然だ。
だから私は、一家の大黒柱が脱サラして行政書士で開業するなら「副業スタート」を絶対に勧める。
その最大の理由は、行政書士で開業してもいきなりは食えないから。
下記のブログは開業から1年間のリアルを綴っている。開業前の方は是非読んでほしい。
副業スタートのメリットはリスク低減
上記のブログを読んでもらうと分かってもらえると思うのだが、行政書士で開業してもいきなり仕事が入ることはまずない。
ツイッターではロケットスタートを決めている方を稀に見るがあまり参考にしない方がいいだろう。
だから私は、副業から始めることをお勧めしたい。
副業収入があれば、開業直後に思うように仕事が取れなくてもマイナス分を補填できるからだ。
開業直後は想像以上にお金がかかる。
名刺やホームページの制作費用、顔を売るための懇親会や飲み会への参加、消耗品や機材の購入、必要書籍の購入やセミナーの受講費用など、想定した以上にお金が飛んでいった。
開業直後から知人を通じてバンバン受任できればいいが、そんな上手い話は滅多にない。
お金は出ていくばかりで、預金残高は物凄いスピードで減っていく。
「開業にあたり1,000万円貯金しました!」と言うなら話は別だが、開業者の多くは少ない事業資金でスタートするものだ。かく言う私も日本政策金融公庫から借り入れをしている。
だから始めは【副業:行政書士】の配分割合を70:30などにしておいて、行政書士の収入が増えてくれば割合を50:50、30:70、最終的に行政書士を100とシフトしてく流れが最適だ。
会社員と行政書士の2足は無理
2020年頃に、厚生労働省がモデル就業規則を改正して、現在副業は『原則容認』となっている。
政府が副業容認に舵を切ってから、大手企業を中心に社員の副業を認める会社は増えつつあるが、私は会社員と副業の2足のわらじはかなりきついと思っている。
行政とのやり取りなくして行政書士の仕事は成立しないのに、平日は会社員、土日は行政書士で一体どうやって仕事を完遂させることができると言うのだろうか。
例えば、正社員で経理の仕事をしている最中に、お客様から「遺言書の相談」で携帯が鳴ったとする。
自分のデスクに座ったまま、耳の遠いお年寄り相手に大声でアドバイスをして、電話を切ったら「すいません部長、ちょっと市役所に戸籍取りに行ってきてもいいですかね。ほんの2時間で戻りますから。」なんて要望がまかり通る会社が存在するのだろうか。
「ふざけるな!」と一蹴されて終わりだ。
だからと言って、土日に行政書士業務を全振りしても、役所が空いていないから戸籍は直ぐに取れないし、関係部署に質問もできなければ申請もできない。
これではいつまで経っても業務を完遂できないし、何より依頼者に迷惑をかけてしまう。
時間ではなく『日』単位で仕事を切り分けよう
会社員(正社員)と行政書士の2足ではなく、[アルバイト、派遣社員、業務委託契約など]と[行政書士]の2足なら現実的にも可能だ。
例えばアルバイトであればシフトを土日に集中させ、平日はできるだけ行政書士に注力できるようにする。
「早朝や夜の時間帯にアルバイトをしても両立可能では?」と考える方もいるかもしれない。役所は空いているし、依頼者とも面談が可能だから。
しかしこれはお勧めしない。
理由は『睡眠時間が削られるから』だ。
個人事業主は身体が資本だ。
言うまでもなく健康を保つためには『良質な睡眠』は絶対に欠かせない。
睡眠時間が減ると、集中力が欠けてミスが増えるし、ストレスも溜まるし、病気になりやすいし、デメリットしかない。
だから早朝や深夜にアルバイトをして睡眠時間を削るようなことは絶対に止めた方がいい。
それなら『日』毎に副業と行政書士で働く日をキッチリ切り分けたほうが健康面はもちろん、効率的にも良いと言える。
同じ日に副業と行政書士で仕事を切り替えるには、脳への負担が大きいから非効率なのだ。
同じ行政書士業務でさえ、許認可と遺言相続を同日に作業するとなると頭の切り替えに多少時間を要する。
だから副業で働く日は副業に専念して、行政書士で働く日は行政書士業務に専念する方が効率良く仕事ができる。
行政書士で働く日は、役所への問い合わせや申請、依頼者との面談を集中させる。
その日1日は「俺は行政書士なんだ」と自念し、全神経を行政書士業務に注ぎ込むのだ。
お勧めの副業
お勧めの副業を紹介したい。
ズバリ『ラウンダー営業』だ。
ラウンダー営業とは、自社商品の売上を上げるため、営業担当者に代わって店舗を巡回する仕事だ。
主にスーパーやドラッグストア、家電量販店や百貨店など、消費者向けの店舗を担当とし、実店舗で商品の説明・補充や並べ方の提案などをおこなう。
実作業時間はそこまで長くない、店舗間は車で移動する為、その間に依頼者との電話やり取りや、役所への問い合わせが可能だ。
移動の合間に、役所へ立ち寄ってサクッと住民票を取ることともできる。
依頼者からの電話問い合わせには絶対に直ぐに出なければいけない。
出られないばかりか、折り返しの電話が翌日になるなんて論外だ。
例えば、ある依頼者が車庫証明の提出を依頼したいと思ってホームページで検索、そして電話をかけるがあなたは副業中で出られなかったとする。
この場合、依頼者は電話がつながる別の行政書士にかけ直すだけだ。翌日まで折り返しの電話を待ってくれることは絶対にない。
電話がつながりさえすれば、例えアルバイト中(副業中)でも「すいません、いま遠方にいまして、明日の朝一番ならお伺いできますがそれでも大丈夫ですか?」と対応可能だ。
この様に、副業からスタートするのであれば『常時受電可能な仕事』を選ぶことが絶対条件だ。
間違ってもヤマト運輸の仕分けやヤマザキパンの製造のアルバイトなどに就いてはいけない。
業務中は電話には出られないし、出られたとしても耳にスマホを挟んだまま荷物を仕分けしたり、パンを製造することはできない。
ラウンダー営業は、車での移動が多いため電話に出られるし、役所に問い合わせる時間もあるといった理由からお勧めしただけであって、他にも個人宅の軽貨物配送業やエアコンの取付け業の副業でもあれば、ラウンダー営業同様に、行政書士との兼務は十分可能だ。
要は、
①日中お客様からの電話問い合わせにレスポンス良く対応できる副業であること
②平日の朝から夕方までフリーな日を設定できること
この2つの条件が整っていれば副業行政書士は十分可能だ。
私が専業でスタートできた理由
ちなみに私は会社員を退職後、副業を挟まずにいきなり行政書士専業でスタートした。
そして現在もなんとか廃業せずに事務所を運営できている。
なぜこの様なことが可能なのか?
私の場合はかなり特殊で『自動収益の柱』があったからだ。
『自動収益の柱』とは、自分の時間を切り売りせずに毎月安定的に収益があがる仕組みのこと。
副業スタートというと、どうしてもコンビニのレジ打ちなど時間給のアルバイトをイメージする方が多いが、これは大きな間違いだ。
それは単に自分の時間を時給900円で販売しているにすぎない。
どんなに丁寧な接客をしようが、どれだけ多くのレジを打とうが、単価の900円が倍の1,800円に増えることはない。ハッキリ言って頑張るだけ無駄。
時間給の働き方で収入を増やすためには
①時給単価を上げる
②労働時間を増やす
この2択しか方法がない。
これでは『その場しのぎ』にすぎないし、いつまで経っても稼げるようになれない。
風邪を引いてレジに立てなくなったら収入はゼロだ。
ここで言う『自動収益の柱』とは、自分が何もせずとも来月も再来月も継続的に収益が入る仕組み(土台)のことを指す。
詳しくは下記のブログを参考にしてほしい。
ブラック営業から抜け出すために始めた副業
実は、私は会社員時代から副業をスタートさせていた。
「将来行政書士で独立開業予定だからいまのうちから副業でも始めとくか」とは一切考えてはいなかった。
副業を始めたきっけは、生活水準を落とさずに労働時間を減らしたかったからだ。
当時は自動車販売店で営業をしており、ノルマに追われる毎日に辟易としていた。
「いったいあと何十年こんな辛い仕事を続けなければならないのだろう」
「営業成績が良くても、早出残業・休日出勤・クレーム(ストレス)が増えるばかり」
「営業ノルマを達成しても、もらえる販売奨励金は雀の涙じゃないか」
「せっかく販売奨励金(雀の涙)を受け取っても、毎月クレームとパワハラを受けて身体が傷だらけになっているので、その傷を癒やすため消費行動(お疲れさんの居酒屋、自分へのご褒美購入、マッサージなど)で帳消しになってしまう」
「なぜ知り合いの経営者たちは、いつも時間とお金、そして心に余裕があるんだろう」
「彼らの様にゆとりをもった生活を送るためには、いまの自分には一体何が不足していているのだろう」
と、いつもいつも考えていた。
別に大金持ちになりたい訳ではなかったが、とにかく毎週・毎月営業ノルマに追われて休みもまともに取れずストレスまみれなのに薄給・昇給ゼロという意味不明な日々から1日でも早く脱出したかったのだ。
なんとか現状を打破すべく、私が最初に取った行動は「時間とお金に余裕がある経営者と現在の自分を比較して何が違うのか?何が足りていないのか?を調べること」だった。
そのためのヒントを得るべく、仕事の合間をぬって毎日大型書店に通い、ありとあらゆるビジネス書を読み漁った。
数名参考になる著者と出会い、その著者の出版する書籍は全て購入して熟読したし、県外で行われた著者のファンミーティングにも参加した。
その結果、ようやく1つの答えが判明した。
「成功者は土台の上に立っている」
成功者は現在だけ切り取って見れば、平日にゴルフに行ったり海外旅行に行ったりできる方もいるが、彼ら彼女らは初めから順風満帆だったわけではない。多くの成功者は、血尿が出るほど何年もたゆまぬ努力を継続してきたのだ。
その結果、自分が現場に出なくても社員に働いてもらうことで売上があがり、そして役員報酬として毎月収入が入る。この『仕組み(土台)作り』に成功した人たちだったのだ。
だから私も毎月毎月ノルマに追われて車を販売しなくても自動的に収益が積み上がる仕組み(土台)さえ作れば、彼らの様なゆとりのある生活に近づくことができるでは?と考えたのだ。
そう腹に決めてから、私の生活は一変した。
ここでは自分がどんな努力をしてきたかを自慢気に言うつもりもないので割愛するが、それはもう大変だった。
結局、仕組み(土台)が形になるまでに5年を要した。
ちょうど行政書士で独立開業するのと同じくらいのタイミングだった。
まさか5年以上前に始めた副業が現在の事務所運営の大きな支えになるなんて思ってもいなかったから驚きである。
この様な経緯があったからこそ私は専業でスタートできた。
かなり特殊なケースだと思う。
だから、これから行政書士で独立開業を予定している人は、まずは副業からスタートするなり、私の様に正社員で在職中のうちから自動収益の仕組み(土台)を作るための準備を始めておくとよいだろう。
どうしても会社員をしながらの副業が難しいのであれば、一旦会社員を辞めて日中受電可能なアルバイトと行政書士を平行してスタートするべきだ。事務所の売上げが徐々に安定してきたら、反対に副業の時間を減らしていけばいい。
とにかく金もコネも経験も無しに、勢いだけで脱サラ開業することだけは危険過ぎるので止めてほしい。
夫(妻)の収入だけで家族が暮らしていくだけの余裕がある人や、独身実家暮らしの方ならまだいいが、一家を支える大黒柱が即独立するのはリスクが高すぎる。
まとめ
- 行政書士1本で即独立しても最初は食えない
- アルバイトなど兼業でスタートが無難
- 副業収入は開業初期の支えになる
- 会社員にうちに自動収益の柱作りを始めておくことが吉
- 事務所の運営が軌道に乗ったら副業時間を減らしていこう
今回は、行政書士で独立開業するなら『副業』、『専業』どちらがお勧めか?について持論を展開した。
少しでも開業予定者の不安を解消できればなによりだ。