ある会社の飲食店事業だけを買収することになったんだけど、事業譲渡契約書を作成するときに気を付けるポイントはあるかな?
事業譲渡契約書では『表明保証』に関する条項が最も重要ですね。
今回は、事業譲渡契約書の作成で絶対に抑える重要ポイント6個を解説します。
事業譲渡契約とは
事業譲渡契約の概要
事業譲渡契約とは、その名の通り、会社の事業の全部または一部を第三者へ譲渡(有償)することを約する契約で、民法では売買契約に該当します。
事業譲渡契約書が必要な理由
事業譲渡契約書は、事業を譲渡する側とされる側、双方の意思が合意されたことを書面に残し、その意思を実現するために必要です。
実際の契約書面では、譲渡される会社の従業員の引き継ぎ事項や、既存顧客との契約関係の引き継ぎ事項など、取り決めるべき項目は多岐に渡ります。
これらを漏れなく契約書に記載し、譲渡時とその後のトラブルを防止し、ひいては双方の利益の最大化を図ることが事業譲渡契約書を作成する目的です。
事業譲渡と株式譲渡の違い
事業譲渡と株式譲渡を混同されるケースがあります。
事業譲渡は、第三者がある会社の事業の一部を買収することを指します。ここでの注意点は、経営権そのものは買収しないということ。
一方株式譲渡は、会社の株式を第三者に譲り渡すことを指します。
自社が発行する株式100%を譲渡すれば、会社の経営権は買収側に移転します。(株式の一部譲渡も可)
また事業譲渡は会社が行う行為ですが、株式譲渡は経営者個人が行います。
以上が、事業譲渡と株式譲渡の大まかな違いです。
事業譲渡契約書を作成するときに気を付ける6つのポイント
(譲渡人)株式会社もふもふ商事(以下「甲」という。仮称)と、(譲受人)株式会社CAT&RUN(以下「乙」という。仮称)は、甲の事業を乙に譲渡するにつき、以下のとおり事業譲渡契約(以下「本契約」という。)を締結する。
譲渡する事業の範囲
事業譲渡契約書は、どの事業をいくらで譲渡するのか、そして譲渡する事業にはどこまでの資産、契約、物件、債権・債務が含まれるのか、を特定しなければなりません。
とは言え、資産には土地や建物から、椅子や机等、細かな備品まで含まれることもあり、これらを全て契約書面に書き記すことは大変です。
この場合は『譲渡物件等目録』と題して別紙にて定めてもよいでしょう。
事業譲渡の実行日と費用の負担
事業譲渡の実行日を定めるのはもちろんですが、意外と盲点なのが、事業譲渡に伴う費用負担。
事業を譲渡するとなると、土地や建物も含まれることもあります。
これらは、譲渡と同時に所有権の移転登記が必要となりますので、その際の費用をどちらが負担するのかが問題となるケースがあります。
契約書で「所有権の移転登記に伴う登録免許税や司法書士の費用負担については折半する」など定めておきます。
従業員の引き継ぎ
事業を譲渡するとなると「譲渡される会社で働く従業員はどうなるのか?」が問題となります。
経営者が変わるのであれば退職する人もいるでしょうし、経営者が変わっても仕事内容や給料が変わらないのであれば残る人もいるでしょう。
契約書では、従業員の引き継ぎ事項について定める必要があります。
例えば、退職する従業員が2名だとすれば「A氏とB氏以外は引き継ぐものとする」など。
また、契約期間の取り扱いや、退職金を含めた賃金の処遇についても譲渡前に説明する責任があります。
契約者の引き継ぎ
契約者とは、買収される企業と契約済の者を指します。
例えば、サッカースクールを買収するのであれば、既に通っている生徒を引き継ぐのか否か、が問題となります。
譲渡する側が、譲渡前に、生徒の保護者等に対して譲渡が行われる事実とその後の影響について説明する責任があります。
そして契約書において決定した事項を落とし込むことになります。
表明保証
事業譲渡契約書で最も重要な条項が、この『表明保証』。
表明保証とは、譲渡する側、される側の双方が、互いに自社の経営に関する事実等を宣誓することを指します。
例えば、買収する側の立場からすると、買収予定の事業が必要な行政庁の許可を得ずに無断でおこなっていること分かっていたら、そもそも買収をしませんよね?
つまり表明保証では、契約時点で、自社の経営状態等が、嘘偽りが無いことを相手方に宣誓する場面なのです。
当然、表明保証は譲渡される側の項目が多くなり、買収する側の項目は少なくなります。
そして、買収後に、万が一表明保証に記した事項と異なる事実が判明した場合は、相手方に損害賠償請求できる旨を定めます。
表明保証は、事業譲渡契約書において最も重要な箇所です。
買収する側は、相手方の行政法上の許可状況、財務状況を中心に、抜け・漏れがないかをしっかりチェックしましょう。
競業避止義務
会社法では、譲渡会社(譲渡する側の会社)は、譲受会社(買収する側の会社)と同一の区域内(市町村及びその隣接地)において、譲渡した日から20年間は譲渡した事業と同じ事業を行うことはできない、と定めています。(同第21条)。
これを競業避止義務といいます。
理由は、譲受け企業の利益を保護する為。
譲渡して直ぐに同じエリアで同じ事業を始められたら、せっかく事業を買収したのに、お客さんがそちらへ流れていく可能性がありますよね?
この様に、譲受け企業の利益を保護する為に競業避止義務があるのです。
ただし、契約は当事者の合意により自由に決められますから、当事者の合意さえあれば、20年の競業禁止期間を30年に延長したり、そもそも禁止期間を免除することも可能です。(同第21条2項)
この場合は、法律の原則と異なる取り決めを行うため、その旨を契約書に記載しなければなりません。
まとめ
今回は事業譲渡契約書を作成する際に気を付ける6つのポイントについて解説しました。
事業譲渡契約書は、他の賃貸借契約書や一般的な売買契約書と比べて分量が増えがちです。
それだけ重要な項目が多いということですから、契約担当者は抜け・漏れがないかを注意深くチェックする必要があります。
とりわけ記載されている事項に誤りがないかをチェックするより、記載されていない事実を発見することの方が何倍も難易度が高いと言えるでしょう。
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