新しいビジネスとしてサッカースクールを始めようと思うんだけど、インストラクターは自社で直接雇用するんじゃなくて外注化したいんだ。
なるほど、それでは外注先の先生と結ぶ業務委託契約書が必要だね。
そうなんだよ。
でもサッカースクールの業務委託契約書の書き方なんて分からないよ。
分かりました。
それでは今回は、サッカースクールのオーナー様向けに、外注の講師と結ぶ業務委託契約書の作成方法と気を付けるポイントを解説します。
インストラクターの質はもちろん契約書の質も重要
サッカースクール(これに限らずあらゆるスポーツスクール)の成功には、優秀なインストラクターの存在が不可欠です。
しかし、インストラクターとの関係を適切に管理し、スクールの円滑な運営を確保するためには、質の高い業務委託契約書が必要不可欠です。
そこで今回は、サッカー(あらゆるスポーツ)スクールの運営者向けに、外注のインストラクターとの業務委託契約書において盛り込むべき重要な事項やリスクの回避方法などを解説します。
本記事ではサッカースクールを題材にしていますが、野球、バスケットボール、卓球、バレー、テニスなどあらゆるスポーツ競技においても共通となる事項です。
スポーツクラブの業務委託契約書の注意点
委託内容の明確化
甲は、乙に対し、次に定める業務(以下「本業務」という。)を委託し、乙はこれを受託する。
- サッカー指導
- スクール運営サポート
- 安全管理
- 生徒および保護者対応
- イベント運営
- 報告業務
スポーツインストラクター業務委託契約書の核となる部分です。
運営者が外注のインストラクターに対して具体的にどのような業務を委託するのかについて明記します。
例えば、「サッカー指導」という漠然とした定義ではなく、年齢や技能レベルに応じた技術指導、戦術的理解の促進、フィジカルトレーニングの実施など、具体的な業務内容を明記することで、インストラクターは自身に何が求められているかを正確に理解できます。
また、スクールの運営サポートや安全管理、生徒・保護者対応などの業務も明確にすることで、インストラクターの責任範囲が明確になり、スクール全体の質の向上につながります。
本条項の必要性
- インストラクターの役割と責任を明確にする
- 期待される業務の範囲を明確にする
- 業務の質を確保する基準を設定する
本条項のメリット
- インストラクターが自身の役割を正確に理解し、期待に応える指導を提供できる
- スクールが提供するサービスの品質を一定に保つことができる
- 業務範囲が明確になることで、適切な報酬設定の基準となる
こんなリスクを回避できる
- 業務範囲の解釈の相違によるトラブルを防ぐ
- インストラクターの怠慢や業務放棄を防ぐ
- 過度の業務要求によるインストラクターの負担増加を防ぐ
業務委託契約書であることの明文化
業務委託契約においては、雇用契約との認識のズレからしばしば問題が起こります。
- インストラクターに対して出勤・退勤時間を定めている
- インストラクターに対して自由に休憩を取らせない
- インストラクターが運営者からの仕事を自身の裁量で断ることができない
- インストラクターに対して福利厚生制度を導入している
そこで契約書に、インストラクターが従業員ではなく独立した事業者であることを明文化します。
これにより、スクールは柔軟にインストラクターを活用でき、インストラクターも自身の裁量で働くことができます。
また、労働法上の様々な問題(残業代請求、解雇規制など)を回避することができ、双方にとってメリットがあります。
本条項の必要性
- 労働法上の問題を回避する
- 税務上の取り扱いを明確にする
- 責任の所在を明確にする
本条項のメリット
- スクールは柔軟な人材活用が可能になる
- インストラクターは独立した立場で業務を遂行できる
- 双方の権利と義務が明確になる
こんなリスクを回避できる
- 従業員としての権利主張(残業代請求など)を防ぐ
- 社会保険や労働保険に関するトラブルを防ぐ
- 税務調査時の問題を回避する
善管注意義務
乙は、良なる管理者の注意をもって本業務を遂行し、甲及び当スクールの生徒の信用を傷つける行為その他不信用な行為を一切行わないことを宣誓する。
善管注意義務とは、ある立場や役割を任された人が、その職務を遂行する上で払うべき注意のレベルを示す法的概念です。
この条項を盛り込むことで、インストラクターはスクールの方針やマニュアルを尊重し、誠実に業務を遂行する義務を負うことになります。
これは単なる技術指導だけでなく、生徒や保護者への対応、スクールの評判維持など、幅広い側面でインストラクターの責任を明確にします。
本条項の必要性
- インストラクターの業務遂行の質を確保する
- スクールの信用と評判を維持する
- 生徒や保護者への適切な対応を保証する
本条項のメリット
- 高品質な指導サービスの提供が期待できる
- スクールの価値と評判の向上につながる
- 生徒や保護者の満足度向上が期待できる
こんなリスクを回避できる
- 不適切な指導や対応によるクレームを防ぐ
- スクールの信用を損なう行為を防止する
- インストラクターの怠慢や不誠実な行為を抑制する
契約期間と更新
本契約の契約期間は、本契約締結日から1年間とする。
ただし、本契約期間満了日の前日までに、甲及び乙いずれからも書面による本契約解除の意思表示が通知されない場合は、さらに1年自動更新され、以後も同様とする。
契約期間は当事者で決めることが可能ですが、最初1年間し、双方から解除の意思表示がない場合は自動更新される形式が多く採用されています。
これにより、長期的な関係を築きつつ、必要に応じて契約を見直す機会を確保することができます。
スクール運営者にとっては安定的な指導体制の維持が可能になり、インストラクターにとっても継続的な業務機会が得られるというメリットがあります。
本条項の必要性
- 契約関係の安定性を確保する
- 定期的な契約見直しの機会を設ける
- 長期的な計画立案を可能にする
本条項のメリット
- インストラクターの安定的な確保が可能になる
- スクールの継続的な運営が容易になる
- 双方が将来の計画を立てやすくなる
こんなリスクを回避できる
- 突然の契約終了によるスクール運営への影響を防ぐ
- 不適切なインストラクターとの長期契約を回避できる
- 契約条件の見直しが難しくなることを防ぐ
中途解約
ここでは契約期間中に中途解約する場合の取り扱いについて定めます。
一定の通知期間(例:3ヶ月前)を設けて中途解約を可能にすることで、双方にとって不適切な状況が生じた場合に、柔軟に契約を終了させることができます。
これは、スクールの質の維持やインストラクターの権利保護の観点から重要です。
本条項の必要性
- 契約関係の柔軟性を確保する
- 不適切な状況からの脱却を可能にする
- 双方の権利を保護する
本条項のメリット
- 状況の変化に応じて契約関係を調整できる
- 不適切なインストラクターとの関係を終了できる
- インストラクターも自由に契約を終了できる
こんなリスクを回避できる
- 不適切な関係の長期化を防ぐ
- 突然の契約終了によるトラブルを防ぐ
- 双方の利益を損なう状況の継続を避けられる
報酬規定
甲は乙に対し、本業務の対価として、以下の報酬(消費税込み)を支払うものとする。
- 基本報酬:1レッスン(120分)あたり○○○○円
- その他の報酬:●円
ここではスクール運営者がインストラクターに支払う報酬について定めます。
レッスンの基本報酬、試合当日の報酬、その他の報酬など、詳細な報酬体系を定めることで、インストラクターは自身の収入を予測しやすくなります。
また、報酬の計算期間や支払日、源泉徴収の取り扱いなども明確にすることで、スムーズな報酬支払いを促します。
さらに、報酬改定の可能性を盛り込むことで、経済状況の変化に応じて柔軟に対応することができます。
本条項の必要性
- 適切な対価の支払いを保証する
- 報酬計算の基準を明確にする
- 税務上の取り扱いを明確にする
本条項のメリット
- インストラクターのモチベーション維持につながる
- 公平で透明性の高い報酬体系を構築できる
- 経済状況の変化に応じて報酬を調整できる
こんなリスクを回避できる
- 報酬に関するトラブルを防ぐ
- 不当に低い報酬による人材流出を防ぐ
- 税務上の問題を回避する
スケジュール管理
- 甲は、毎月●日までに翌月の業務予定表を作成し、乙に通知するものとする。
- 乙は、前項の業務予定表を受領後●日以内に、自己の都合を勘案の上、甲に対して業務可能日時を書面により回答するものとする。
- 以下続く
ここではいわゆるシフトの決め方や、急なレッスンキャンセルの対応などについて定めます。
月次の予定表の作成、インストラクターの回答、スケジュール決定の流れ、各種変更手続き、キャンセルや遅刻の際の通知ルールなどを詳細に定めることで、スムーズなスクール運営が可能になります。
本条項の必要性
- 効率的なスクール運営を可能にする
- インストラクターの予定を尊重する
- 突然のキャンセルや変更によるトラブルを防ぐ
本条項のメリット
- スムーズなレッスン運営が可能になる
- インストラクターの働きやすさが向上する
- 生徒や保護者への安定したサービス提供が可能になる
こんなリスクを回避できる
- スケジュール調整トラブルを防ぐ
- 突然のレッスンキャンセルによる損失を防ぐ
- インストラクターの過度な拘束を避けられる
安全管理
乙は、本業務の遂行にあたり、安全管理に十分注意を払い、事故の防止に努めるものとする。
ここではスクール運営上の安全配慮義務について定めます。
スクール側は安全な環境を整備する義務を負い、インストラクターは安全に配慮して指導を行う義務を負うことを明確にします。
また、事故発生時の対応手順を定め、迅速かつ適切な対応を取ることを目指します。
これにより、生徒の安全が確保され、保護者からの信頼も得やすくなります。
本条項の必要性
- 生徒の安全を確保する
- 事故発生時の対応を明確にする
- 法的責任の所在を明確にする
本条項のメリット
- 安全な練習環境の提供が可能になる
- 事故発生時の迅速な対応が可能になる
- 保護者からの信頼獲得につながる
こんなリスクを回避できる
- 重大な事故の発生を防ぐ
- 事故発生時の責任所在の不明確さによるトラブルを防ぐ
- 安全管理の不備による訴訟リスクを低減する
業務遂行災害と事故処理
ここでは、インストラクター自身が怪我を負った場合や、インストラクターが生徒に怪我を負わせてしまった場合の責任の所在を明文化します。
これにより、不測の事態が発生した際のスムーズな解決と被害者への適切な賠償支払いを可能にします。
本条項の必要性
- 不測の事態への対応を明確にする
- 損害賠償責任の所在を明確にする
- インストラクターとスクールの責任範囲を区別する
本条項のメリット
- 事故発生時の迅速な対応が可能になる
- 公平な損害負担が可能になる
- 保険加入の判断材料となる
こんなリスクを回避できる
- 事故処理を巡るトラブルを防ぐ
- 過度な損害賠償責任をスクールが負うことを防ぐ
- インストラクターの過失による損害をスクールが負担することを防ぐ
禁止事項
乙は、本契約に基づく業務の遂行にあたり、以下の行為を行ってはならない。
- 甲の名誉または評判を損なう行為を行うこと。
- 甲の機密情報を第三者に開示または漏洩すること。
- 甲の許可なく、甲の会員に対して直接的な指導サービスを提供すること。
- 以下、続く
禁止事項とは、一般的にスクール側がインストラクターに対して禁止する事項のことです。
禁止事項を明確に定めることで、インストラクターの行動に明確な指針を与えることができます。
例えば、機密情報の漏洩禁止は、スクールの独自の戦術やトレーニング方法、経営情報を保護します。
競合他社での兼業禁止は、スクールのノウハウや顧客情報の流出を防ぎます。
また、ハラスメント行為やSNSでの不適切な発言を禁止することで、スクールの評判を守り、安全で健全な経営を維持するのに役立ちます。
本条項の必要性
- スクールの利益を保護する
- インストラクターの行動規範を明確にする
- 法的・倫理的問題を防止する
本条項のメリット
- スクールの信用や評判を維持できる
- 公正な競争環境を確保できる
- 高い倫理基準を持つスクール運営が可能になる
こんなリスクを回避できる
- 競合他社への利益流出を防ぐ
- ハラスメントなどの問題行動を防止する
- SNSなどでのスクールの評判を損なう発言を防ぐ
催告による契約解除
中略…相当期間が経過したにもかかわらず、乙の技術の向上及び接遇態度の改善が図られなかった場合、甲は本契約を直ちに解除することができるものとする。
業務委託契約書における契約解除条項は、会社の破産や手形の不渡りなどの信用不安がある場合に即時解除できる旨を定めることが一般的ですが、ここでの『契約解除条項』は、若干意味合いが異なります。
即時解除の前に、ワンクッション指導を挟むイメージです。
例えばスクール運営者が、あるインストラクターの実績を評価した上で業務委託契約を結んだとします。
しかし実際は動きが悪いし指導方法にもパワハラ体質がある人物だった。その結果、クレームとスクール退会者が続出。
こんな場合に備えて、スクール運営側から契約解除できる旨を契約書に盛り込みます。
具体的には、インストラクターの技術や指導方法に問題がある場合、まずは改善の機会を与え、それでも改善が見られない場合に契約を解除するという段階的なプロセスを踏むのです。
本条項の必要性
- 問題のあるインストラクターとの関係を適切に終了させる
- 公平で透明性のある解約プロセスを確立する
- インストラクターに改善の機会を与える
本条項のメリット
- スクールの指導品質を維持できる
- インストラクターのスキル向上を促進できる
- 公正な解約プロセスにより法的リスクを軽減できる
こんなリスクを回避できる
- 不適切なインストラクターの長期雇用を防ぐ
- 突然の契約解除によるスクール運営への影響を防ぐ
- 解約を巡る法的紛争を防ぐ
まとめ:インストラクターと良好な関係性を構築しよう
今回は、サッカースクールの運営者向けに、外注のインストラクターとの業務委託契約書において盛り込むべき重要な事項やリスクの回避方法などを解説してきました。
外注のインストラクターとの業務委託契約では、その品質が重要であることは言うまでもありませんが、それ以上にスクールの運営者とインストラクターが良好な関係性を構築することが重要になります。
スポーツクラブ経営の成功は、両者の信頼関係が土台となるからです。
つまり、外注のインストラクターを単なる外部の業務委託先として見るのではなく、スクールの成功に不可欠なパートナーとして扱う姿勢こそが重要です。
外注のインストラクターと、スクールの理念や価値観を共有し、互い成長していく姿勢を持つことで、結果として生徒の満足度向上、スクールの評判アップにつながります。
したがって今回解説したポイントを契約書に盛り込みつつ、並行して、インストラクターとの良好な関係構築に投資することが、スクール運営の成功につながるでしょう。
本記事がスポーツクラブ運営者様の事業の発展の一助になれば幸いです。
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