「主力業務をなかなか決められない」こんなお悩みを抱える新人行政書士は多い。
私もそうだったが、開業から2年間紆余曲折して最近ようやく業務を2つまで絞ることができた。
そこで今回は、私なりの業務選定方法をお伝えする。
主力業務を絞れないのは当然
主力業務を絞れないのは無理もない。行政書士が取扱うことのできる業務があまりにも多すぎるからだ。
遺言、相続、成年後見、任意後見、死後事務委任、建設、産廃、風営、古物、民泊、運送、自動車、障がい福祉、定款認証、契約書、内容証明、ビザ、在留資格、など多すぎる。一体全部でいくつあるのだろうか。
これら膨大な業務の中から自分に適した(適してそうな)業務を選定し、顧客にPRして仕事を受任する形になる。
このときよくアドバイスされるのが、「依頼がきた仕事は断らずに全て受けてみよう」というもの。
これは、最初はわけがわからないだろうが様々な業務を処理していくうちに、徐々に自分に適した業務が判別できるようになるというものだ。
これは良いと思う。
実際私も今日まで様々な業務を断らずに手を出してみた(数は少ないが)ことで、ある程度まで絞ることができた。
お客の選択権があるのは自営業者の特権
業務選定において、一番重要なのは、
「どんなお客様と仕事をしたいか?」
「どんな人を自分のお客様にしたいか?」
ということ。
行政書士に限らず、独立開業者は、お客様にしたい人を自分で選ぶことができる。この『自分に選択権がある』というのは独立開業者の特権である。これをフル活用しない手はない。
例えば、あなたがラーメンチェーン店を展開する会社の社員で、いつも店に来る度に料理にイチャモンを付けやり直しをさせたり女性スタッフに暴言を吐いたりするオッサンがいたとする。
いわゆるクソ客というやつだ。
あなたは次第に接客に耐えられなくなり、なんとかしてほしいと本部の上司に泣きつく。
しかし上司は「まあ確かに態度は悪いけどさ、常連さんだからさ、もうちょっと我慢してよ」で片付けられ、何も問題が解決しない。
翌日もオッサンは来店して暴言を吐くので、次第にストレスが溜まり血尿が出る。
この状況は非常に辛い。適応障害になって自主退社する未来しか見えない。
しかしだ。あなた自身がラーメン屋のオーナーなら何も悩む事はない。オッサンを出禁にすれば一瞬で解決する。
「あんたなんか客じゃない。二度とくるな」で終わり。
「なんだと?店長出せ!」と言われれば、「俺が店長だ」と言えば、オッサンもそれ以上何も言えなくなる。
このように「自分でお客を選べる=自分に選択権がある」というのは、商売を長く継続する上で超重要な要素なのだ。
せっかくサラリーマンを辞めて一国一城の主になり、お客様を選べる立場にあるのだから、この特権を利用しない手はない。
だから開業前の時点でしっかりと「どんなお客様と仕事をしたいか?」「どんな人を自分のお客様にしたいか?」を決めておかなければならない。
業務選定理由
ちなみに私は、建設業と契約書作成の2本に絞ることができた。
この2本に絞った理由はいくつかある。
B2Bであること
まず取扱業務を選定するにあたり、主要取引先は会社(B2B)に限定しよう、というのはハッキリと決まっていた。
理由は約15年間のディーラー勤務時代、何百人もの個人客を担当して疲れてしまったという点が大きい。幸い私が担当するお客さんは良い方ばかりだったが、やはり中にはモンスタークレーマーもけっこういて、それらを対処するうちに病みかけた辛い過去がある。
また会社員として約20年間、個人と法人どちらの取引も経験したが、法人B2Bの方が圧倒的に無茶難題を押し付けてくる確率が低かった。
これは『会社』というフィルターに、個人の我をある程度シャットアウトする効果があるからだ。
例えば取引先に意地の悪い担当者がいて、その人が下請けをいじめようとしても、会社法、下請法、CSRなど関係諸法令のガバナンスやコンプライアンス遵守体制が見え隠れして無茶難題を押し付けにくい。
このような過去と経験があって、どの業務を主力とするか?その大前提として、私はB2B取引であることが絶対条件だったのだ。
建設業はもちろん、契約書作成の依頼者も法人(B2B)オンリーである。
※個人からの「婚前契約書」や「離婚協議書」の作成は承っていない。
補足として、「法人は土日祝が休み」という理由もある。個人のお客さんは平日や土日関係なく連絡してくるが、法人はそれがない。
土日祝日はゆっくり過ごしたいのよ。
電話が鳴らない業務
他の記事でも主張し続けているのだが、私は大の電話嫌いだ。
理由はここでは割愛するが、電話が嫌いすぎるのでお年寄りやご年配者を相手にする業務(遺言・相続など)は取扱業務から必然的に除かれることになった。
お年寄りやご年配者は、用があると必ず電話をかける。LINEやSlackやChatworkでメッセージをくれたりしない。
私はこれが耐えられないので、遺言や相続は主力業務から外している。(ただし以前から付き合いのある方、紹介された方、ご近所さんからの依頼は喜んで承っている)
ここでは、新規で積極的に営業をかけるターゲット対象にはお年寄りやご年配者は入っていない、という意味だ。
電話抜きで仕事を完結させるなんて、そんなことが可能なのか?と思ったであろう。
それが可能なのである。そう『契約書の作成』なら。
契約書の作成を相談してくださる方は、メールやLINEでのやり取りに抵抗がない層が多い。
だから初回の問い合わせ→打ち合わせ→納品まで、ほとんどメッセンジャーやズームで完結するのだ。
電話嫌いな私にとって、このシステムは大変ありがたい。
契約書の作成業務を見つけられたのは、砂漠でオアシスを発見したのと同じ感動があった。
業界特有の属性を見極めよう
最初に「B2Bが業務選定の前提条件だった」と説明したが、B2Bと言っても建設、運送、不動産、自動車、医療、福祉、小売、警備業など、その業界は様々である。
そしてそれぞれの業界で働く人たちには業界特有の『属性』がある。
『属性』とは、風土・雰囲気・体質・性質・特性とも換言できる。
なぜ属性という言葉を選択したのかと言うと、属性には相性があるからだ。
同じ法人取引であっても、人対人の取引きであることには変わりないので顧客との相性が重要になる。
例えば、RPGゲームで水属性の敵には雷系の魔法攻撃を仕掛けた方が与えるダメージが大きいと言えばイメージが湧きやすいだろう。
不動産業界と福祉業界では、そこで働く人々の属性が全く異なる。行政書士が取引先をB2Bに絞るのであれば、業界の属性を分析しなければならない。
簡単に言うと「業界特有の雰囲気が自分と肌感覚で合うか合わないかを感じ取りましょう」と言いたいのだ。
偏見で悪いが、ツーブロックゴリラは港区のマンションデベロッパーにいそうなイメージで、私とは絶対に合わない自信がある。
私は、自動車販売店の勤務時代に様々な業界の方とお付き合いする機会があったが、建設業界の方たちとはなんとなく雰囲気(属性)が合うな、と感じていたので『建設業許可』を主力業務に選定した。
もう1つ理由があって、建設業は毎年の決算変更届や更新などの継続業務が見込めるという点も魅力的だった。
どの業界(属性)が合うかどうかは、当然人によって異なる。
スーツをビシッと着た保険代理店の社長と馬が合う行政書士もいれば、つなぎを着て加えタバコでタイヤ交換をするモータースの社長が話しやすいと感じる行政書士もいるだろう。
これが私にとっては建設業界だったのだ。
主力業務を選定するにあたっては、まず主要取引先を個人・法人どちらにするのかを定める。
次に法人であればさらに細分化して業界まで絞る。
個人であれば、性別や年代まで絞る。ご年配者やお年寄りが好きな方であれば、遺言書作成や相続、民事信託や終活支援サービスなどが向いているだろう。
マーケティングの基本は『ペルソナ』を意識すること。
ターゲティングがふわふわしていると、結局誰の心も揺さぶることができない。
20代の女性がインスタ映えするカフェをオープンするにあたり、つなぎ服を着た60代の男性客をメインターゲットにはしないだろう。
最後にもう一度言うが、行政書士が業務選定するうえで1番重要なことは、「どんなお客様と仕事をしたいか?」「どんな人を自分のお客様にしたいか?」だ。これを主軸に選択するとよい。
なんとなくでもいいからまずは軸を1,2本決めてスタートする。その後に「あれ?なんか違うな?」と違和感をおぼえれば、その都度軌道修正いけばよい。
全部決めてから動くのではなく、まずはスタートする。これが大事。
『リーン・スタートアップ』に近い感覚だ。
「コストをかけずに最低限の機能を持った試作品を短期間で制作し、顧客の反応を的確に取得しながら、顧客がより満足できる製品・サービスを開発していくマネジメント手法」のこと。
新規事業での無駄を出さないための手法で、自己満足で終わらない新規事業開発を可能にする。
以上、お役に立てれば幸いである。